米宇宙企業スペースXは2024年7月12日、主力ロケット「ファルコン9」の打ち上げに失敗した。

ファルコン9の失敗は2016年以来、8年ぶりで、この間に334回の連続成功を続けていた。

原因は調査中で、打ち上げ再開のめどは立っておらず、場合によっては影響が広く波及する可能性もある。

  • 問題が起きた第2段機体。液体酸素が漏れている様子がわかる

    問題が起きた第2段機体。液体酸素が漏れている様子がわかる (C) SpaceX

ファルコン9の失敗

ファルコン9は日本時間7月12日11時35分(太平洋夏時間11日19時35分)、カリフォルニア州にあるヴァンデンバーグ宇宙軍基地から離昇した。

ロケットには、同社のインターネット衛星「スターリンクV2ミニ」が20機搭載されていた。

当初、ロケットは順調に飛行し、第1段は計画どおり燃焼を終えて分離され、太平洋上の「もちろんいまも君を愛している」号に着陸した。

その間も、ロケットの第2段は軌道に向かって飛行を続けていたが、次第に第2段エンジン「マーリン1D バキューム」に貼られている断熱シート(MLI)が膨らみ始め、大量の霜が付着し、さらに推進薬の液体酸素が漏れ始めた。

第2段に霜が付着したり、MLIが膨張したりすることは、これまでの打ち上げでもよく見られた現象だが、今回はその量が多く、なにより液体酸素の漏れは明らかに異常だった。

それにもかかわらず、第2段エンジンの1回目の燃焼は計画どおり完了し、傾斜角53.2度の高度約135×280km、軌道傾斜角53.2度の軌道に到達した。

今回のミッションでは、このあと第2段エンジンの2回目の燃焼を行い、最終的に高度約300kmの円軌道に入り、衛星を分離することになっていた。しかし、同社のイーロン・マスクCEOによると、第2段の2回目の燃焼を開始しようとしたところ、「エンジンが急速な予定外の分解(rapid unscheduled disassembly)を起こした」という。

もっとも、第2段機体は生き残り、搭載していた衛星を分離することはできた。しかし、近地点高度(地球に最も近い点)が135kmと非常に低く、これは予定していた近地点高度の半分以下だった。

これを受け、スペースXはスターリンク衛星のシステムを早急に立ち上げ、衛星のスラスターを噴射することで軌道を上げようとした。しかし、高度135kmは大気との抵抗が大きな領域で、そのうえスターリンク衛星のスラスターは電気推進エンジンであるため、推力が小さいことから、軌道を上げられない可能性があった。

マスク氏によると、スラスターを「ワープ9」(最大出力)で動かしたという。しかし、予想どおり大気との抵抗に打ち勝てず、7月12日から13日の間に、すべての衛星が大気圏に再突入し、失われた。

スターリンク衛星は設計段階から処分時のことを考慮し、再突入で燃えて分解しやすいように造られているため、地上への影響はなかった。

なお、第2段機体は衛星の分離後、軌道上で爆発するのを防ぐために不活性化する処置を行うことができたという。もっとも、制御再突入するためのエンジン燃焼はできず、しばらく軌道上にとどまったあと、再突入した。第2段機体は完全に燃え尽きない可能性もあったが、現時点で地上への被害は確認されていない。

  • 打ち上げを待つファルコン9ロケット

    打ち上げを待つファルコン9ロケット (C) SpaceX

失敗の影響

今回の打ち上げは、ファルコン9にとって通算354回目で、現行型の「ファルコン9 ブロック5」に限っても298回目、今年だけでも70回目だった。通算での連続成功数は334回を数え、これはあらゆるロケットの中で最高記録となっている。

打ち上げ失敗は、2016年以来となる(厳密には、地上での試験中の爆発)。2021年2月には、第1段エンジンの燃焼が早期に止まるというトラブルに見舞われたが、打ち上げ自体は成功している。

今回の失敗を受け、スペースXはファルコン9の運用を一時停止した。米連邦航空局(FAA)も事故調査を開始している。

スペースXは「この出来事は、宇宙飛行が技術的にいかに困難であるかを思い出させる。FAAとともに徹底した調査を実施し、根本的な原因を突き止め、今後のミッションを確実に成功させるための是正措置を講じる」としている。

ファルコン9はすでに十分な実績と信頼性があるロケットであり、原因の特定や対策は比較的簡単とみられ、打ち上げ再開までは数週間程度で済む可能性がある。その点では、H3ロケット試験機1号機の打ち上げ失敗のような、新型ロケットの失敗とは、技術的な質が異なるものである。

ただ、ファルコン9は昨年96回の打ち上げをこなし、今年はそれ以上の打ち上げを目指していたことから、ロケットの製造・試験、輸送・保管といった部分で無理が生じたなどの可能性もある。高頻度な打ち上げが要因となれば、一時的に打ち上げ頻度を少なくしたり、施設設備や人員を増強したりといった対策が必要となり、影響が長引く可能性もある。

なにより、たとえ数週間でも打ち上げが止まれば、打ち上げ計画や、打ち上げを待っている衛星側の予定に、遅れが生じることは間違いない。

とくに、8月には宇宙飛行士4人を乗せ、「クルー・ドラゴン」運用9号機を国際宇宙ステーション(ISS)へ打ち上げることになっており、打ち上げが遅れることになれば、ISSの運用全体にも影響する可能性がある。

また、10月には欧州宇宙機関(ESA)の小惑星探査機「ヘラ」の打ち上げが、同じく10月にはファルコン9と同じ第2段を使った「ファルコン・ヘヴィ」ロケットによる、木星の衛星エウロパを探査する米国航空宇宙局(NASA)の「エウロパ・クリッパー」の打ち上げも予定されている。これらは目的地との天体と地球との位置関係から、打ち上げが可能な期間が限られていることから、もし原因調査や対策に時間がかかり、打ち上げ停止の期間が長引くようなことがあれば、年単位での打ち上げ延期など、大きな影響が出る可能性もある。

さらに、ファルコン9は日欧共同の地球観測衛星「EarthCARE」や欧州の測位衛星「ガリレオ」も打ち上げており、先ごろも、欧州気象衛星機構(EUMETSAT)が、次期気象衛星を欧州のロケットではなくファルコン9で打ち上げることを決定するなど、他国の宇宙政策にもかかわっている。打ち上げ停止の期間が長引けば、影響が広く波及することになるかもしれない。

  • ファルコン9ロケット(画像は過去の打ち上げのもの)

    ファルコン9ロケット(画像は過去の打ち上げのもの) (C) SpaceX

参考文献

- SpaceX - Launches
SpaceX(@SpaceX)さん / X