愛知県がんセンターと名古屋大学(名大)の両者は1月29日、17万5000人以上の日本人を対象に、アルコール代謝の関連酵素「ALDH2」の遺伝的な違いとの組み合わせによって、飲酒行動に影響を与える別の遺伝的要因を探索するゲノム解析を行った結果、遺伝的にお酒にそれほど強くない人でも、組み合わせ次第でお酒を多く飲んでしまうこと、さらにそれが食道がんなどの飲酒関連がんにも関係することが明らかになったと共同で発表した。

同成果は、愛知県がんセンター がん予防研究分野の松尾恵太郎分野長、同・小栁友理子主任研究員、名大大学院 医学系研究科 実社会情報健康医療学の中杤昌弘准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国科学振興協会が刊行する「Science」系のオープンアクセスジャーナル「Science Advances」に掲載された。

日本人の飲酒行動に最も強力な影響を与える遺伝的要因となる重要なバリアント(遺伝的な違い)に、ALDH2遺伝子上の1つの塩基がグアニン(G)からアデニン(A)に変化する一塩基多型(SNP)の「rs671」がある。それにより日本人はGG・GA・AAの3つの遺伝型に分類され、飲酒行動に明確な違いがあることがわかっている。GG型は酒に強いタイプで、アルコールの最初の代謝産物である「アセトアルデヒド」(発がん性が疑われている物質)が蓄積しにくい(欧米系集団では大半がGG型)。一方でAA型は、アセトアルデヒドの分解能力が極めて低いため(酒が苦手)、そもそもあまり飲酒をしない。

残る中間のGA型は、GG型よりアセトアルデヒドの分解能力が低いものの飲酒パターンは幅広く、飲酒量が増えてアセトアルデヒド曝露量が上昇するにつれ、飲酒関連がんが最も高いリスクを有するようになるという(GG型とAA型はリスクが低い)。そのため、GA型の幅広い飲酒行動を決定する別の遺伝的要因の同定は、飲酒関連がんの個別化予防に寄与することが考えられるとする。

そこで今回の研究ではまず、日本分子疫学コンソーシアム、ながはまコホート、バイオバンク・ジャパンによって収集された日本人集団(17万5672人)の遺伝情報と飲酒行動の情報を用いて、日本人のゲノム全体の中からALDH2 rs671の遺伝型に関わらず飲酒行動に関連するバリアントを探すゲノムワイド関連解析(GWAS)が行われた(層別なし解析)。その結果、ALDH2を含む6つの遺伝子領域上のSNPが飲酒関連バリアントとして同定されたという。

  • 1日アルコール摂取量のGWASのマンハッタンプロット(層別なし解析)

    1日アルコール摂取量のGWASのマンハッタンプロット(層別なし解析)(出所:共同プレスリリースPDF)

次に、飲酒をほぼしないAA型を除いて、それぞれrs671遺伝型別にGWASが行われた(層別あり解析)。その結果、GG型では3つの遺伝子領域上のSNPが飲酒関連バリアントとして同定された。一方で、GA型ではALDH2などのアルコール代謝関連遺伝子を含む6つの遺伝子領域上のSNPが飲酒関連バリアントとして同定されたとする。

  • 1日アルコール摂取量のGWASのマンハッタンプロット(層別あり解析)

    1日アルコール摂取量のGWASのマンハッタンプロット(層別あり解析)。(A)rs671 GG型、(B)rs671 GA型の結果が示されている(出所:共同プレスリリースPDF)

続いて、それらの遺伝子領域において最も関連の高いSNPの飲酒への効果の大きさを調べたところ、rs671遺伝型の違いにより大きく異なっていることが判明。たとえば、SNP「ALDH1A1 rs8187929」では、rs671 GG型の人が、同SNPにA塩基を持っていても飲酒量は変わらないのに対し、rs671 GA型の人が同SNPにA塩基を持つと飲酒量が増えることなどがわかった。

  • 層別あり解析で同定されたSNPの飲酒量への効果量

    層別あり解析で同定されたSNPの飲酒量への効果量。黄色が濃いほど飲酒量増加効果が大きく、青色が濃いほど飲酒量低下効果が大きい(出所:共同プレスリリースPDF)

研究チームは、このようにrs671遺伝型で層別化されたGWASを行うことで、遺伝型によって表現型への影響が異なるSNPが明らかになり、SNPが単独ではなく複数組み合わさって表現型に影響している「交互作用」であることが示されたとしている。

さらに、層別あり解析で同定された7つのSNPと代表的な飲酒関連疾患である食道がんリスクとの関連を検討するため、愛知県がんセンター 病院疫学研究とバイオバンク・ジャパンにより収集された食道がん症例群と非がん対照群を用いた研究が行われた。その結果、層別あり解析で同定された7つのSNPのうち、4つが食道がんリスクに対してもrs671と交互作用を伴って関連していることが示唆されたとのこと。たとえば、rs671 GA型かつ、ADH1B遺伝子上の1つの塩基がTからCのバリアントに変化するSNP「ADH1B rs122994」の場合、それぞれ単独でのリスクを足し合わせた場合よりも食道がんリスクが3.77倍上乗せされて高くなることなどが明らかになったという。

今回の研究結果から、飲酒行動の遺伝的背景には、rs671と複数のSNPが交互作用を伴い関与していることが示された。研究チームは、層別あり解析で同定されたSNPには、飲酒行動だけでなく食道がんリスクにもrs671と交互作用を伴い関与するものが存在しており、日本人の遺伝的背景に基づく飲酒関連がんの個別化予防のさらなる促進に寄与することが期待されるとしている。