探査機「はやぶさ2」が小惑星「トリフネ」の直近を通過するフライバイ探査に成功したと、宇宙航空研究開発機構(JAXA)などが発表した。地球から1億キロのかなたで、最接近時の相対速度は秒速5.3キロ。6日に会見した探査チームは、はやぶさ2が撮影したトリフネの精細な写真を公開し、形状を「雪だるまのようだ」「お団子」と表現。担当者は「フライバイの一瞬でいい写真が撮れ、感動した」と語った。計画した全ての観測に成功し、機体はその後も正常という。
はやぶさ2は加速用のイオンエンジン(電気推進エンジン)を噴射して軌道制御を繰り返し、トリフネを目指した。5日午後には機体に搭載したコンピューターによる自律制御に移行。同6時半、トリフネに最接近した。計画ではトリフネの中心から800メートルの“超接近”を目指しており、その実績値やトリフネの大きさを今後、解析するという。
6日の会見で公開したのは、はやぶさ2の望遠カメラで、最接近時刻の1秒前に撮影したとみられるトリフネの写真。細長く、中央が深くくびれた形状が特徴だ。チーム長を務めるJAXA宇宙科学研究所の三桝(みます)裕也研究開発主幹は「フライバイが速いため、小惑星の手前側は画像が少しブレている。それでも、こんなにいい写真が撮れるのかと衝撃的で感動した」と話した。
初代「はやぶさ」が2005年に探査した小惑星「イトカワ」は、撮影した写真から(動物の)ラッコ型、はやぶさ2がトリフネの前に18~19年に探査した「リュウグウ」は(玩具の)こま型などと例えて表現された。トリフネについて記者が問うと、三桝氏は「雪だるま」と応じた。吉川真准教授は「お団子をくっつけたような形」と表現した。
トリフネの形状をめぐり、吉川氏は次のように解説した。「一見してイトカワに似ている。どちらも、2つの小惑星がくっついてできた『コンタクトバイナリー』だ。ただしトリフネの方が、くびれがより深い。まだくっついたばかりで、時間が経つと隕石(いんせき)の衝突などの衝撃で、くびれが埋まってイトカワのようになるとの見方がある。詳しい議論が必要だ。太陽系にコンタクトバイナリーは多いとみられる。小惑星同士が衝突し、壊れずにくっつくことが結構あるのではないか。こういうことを調べていくと、太陽系初期に微惑星が生まれ、現在に至る過程を調べる上で役立つかもしれない。今回、新たなサンプルが加わり、面白くなりそうだ」
観測はトリフネを撮影する光学望遠カメラのほか、温度を測定する中間赤外カメラ、水の存在や構成物質を調べる近赤外分光計、観測の正確な距離を把握するレーザー高度計の活用を計画し、いずれも成功した。小惑星のフライバイでレーザー高度計の計測に成功したのは、世界初とみられるという。吉川氏は「疾走する馬から的を射抜く流鏑馬(やぶさめ)のようなことができ、本当に画期的だ」と説明した。
トリフネの直近を通過するフライバイにより、地球で暮らす人類を天体の衝突から守る「プラネタリーディフェンス(惑星防衛)」に役立つ技術を獲得することも目指した。今回の成功により、危険な天体の素性を調べたり、軌道を変更して地球を守ったりすることにつながる基礎技術を獲得した。

リュウグウを探査するはやぶさ2の想像図(池下章裕氏提供)
はやぶさ2は2014年12月に地球を出発。リュウグウを訪れ、2回にわたり着地して試料を採取するなど探査した。20年12月に地球に帰還し、上空から試料の入ったカプセルを分離して地上に着地させた。燃料に残量があることや、さらに科学の成果を期待できることなどから運用を延長。今後は、27年12月と28年6月の2回にわたり地球の引力を利用して軌道変更する「スイングバイ」を経て、31年7月に最終目的地の小惑星「1998KY26」に到着する。その後、地球に再び帰ることはない。
延長運用により、機体は設計上の寿命を超過している。イオンエンジンや、リアクションホイールと呼ばれる姿勢制御装置に劣化や問題がみられる。今後も劣化が進み、さらに“綱渡り”の運用となる恐れがある。三桝氏は「機器をケアしながら運用していくしかない。初代はやぶさはこれ以上に苦しい状況で地球に帰還しており、その精神を見習って最後の最後までやる」と意気込みを語った。
発表はJAXAのほか会津大学、大島商船高等専門学校、京都産業大学、公立鳥取環境大学、国立天文台、米ジョージア工科大学、千葉工業大学、東京大学、名古屋大学、北海道大学が行った。

会見後に撮影に応じるJAXA宇宙科学研究所の(左から)吉川真准教授、三桝裕也研究開発主幹、藤本正樹所長=6日、東京都千代田区


