ソニーグループは、投資家およびアナリストを対象に「事業説明会2023」を開催し、ソニーグループ 上席事業役員であり、ソニーセミコンダクタソリューションズ代表取締役社長兼 CEOの清水照士氏が、イメージング&センシング・ソリューション(I&SS)分野の事業戦略について説明した。

中期的な計画として、イメージセンサー市場において、2025年度に60%の金額シェアを獲得することを打ち出してきたが、2022年度には、51%を獲得し、過半数を突破。「成長機会を確実に捉えることで、60%の金額シェアは達成できると考えている」と、今後の事業成長に自信をみせた。

  • 清水照士氏

    ソニーグループ 上席事業役員、ソニーセミコンダクタソリューションズ代表取締役社長兼 CEOの清水照士氏

2023年度は増収も減益の予想

事業説明会のなかで、清水社長兼CEOは、まず、2022年度から2023年度にかけての事業環境について説明した。

I&SSの2022年度業績は、前年比30%増の1兆4022億円、営業利益は36%増の2122億円と好調な結果になったことに触れ、「2022年度は、大判化のトレンドを受けて、ソニーの主戦場となるスマートフォン(スマホ)の高級機市場は比較的堅調であり、為替のポジティブ影響もあり、増収増益を達成した。だが、世界的な景気の悪化を受けて、スマホ市場が低迷し、イメージセンサーも市場在庫が高止まりして伸びやんだ1年となっている」と総括。「2023年度はさらに厳しい事業環境を想定している。スマホ市場は軟調に推移し、センサーの在庫高の状況も、当面は反転が見込めない。下期からは緩やかな回復を期待しているが、楽観視はできず、事業環境は不安定である。2023年度の業績見通しは増収減益であり、需要動向を踏まえて、慎重な事業運営を進める」と述べた。

I&SSの2023年度業績見通しは、売上高が前年比14%増の1兆6000億円と2桁増を見込むが、営業利益は6%減の2000億円と減益予想としている。

  • I&SSの2022年度レビューと2023年度業績見通し

    I&SSの2022年度レビューと2023年度業績見通し

「2030年度までのイメージセンサー市場全体の見通しについても見直しを行い、市場の過半を占めるモバイルイメージングは、前年同期の予測に比べて数年遅れで推移すると予測した。だが、センシングは順調に推移すると見ている。モバイルのアプリ不足の懸念はあるが、車載、インダストリー、セキュリティにおいては、中長期的で安定的な成長を維持する。イメージセンサー全体での年平均成長率は9%となり、成長市場であることに違いはない。お客様と、今後のイメージセンサーにどんな技術を入れるのかといった話をしているが、それに関する技術開発され、利用できるタイミングが、2027~2028年にやってくる。詳細は語れないが、そこでイメージセンサー市場が一段拡大すると見込んでいる」などと述べた。

  • 2030年度までのイメージセンサー市場全体の見通し

    2030年度までのイメージセンサー市場全体の見通し

I&SS事業の今後の方向性

I&SSの事業の方向性については、モバイルイメージングと、車載イメージセンサーを中心に説明した。

モバイルイメージングでは、市場全体の成長が遅れる傾向にはあるものの、大判化のトレンドが、センサー市場を牽引。中国スマホメーカーが、フラッグシップモデル向けに、1型センサーの採用を決定したり、高級モデルでは1/1.5型の50M画素センサーが主流となっていたりという動きがある。「期待していた通りに、さらなる大判化の要求がある。このモメンタムを捉え、大判化の流れを確実にしていきたい。大判化をはじめとした高付加価値型のイメージセンサーの需要の高まりは、カメラがスマホの差異化要素として位置づけられていることが背景にある。中長期的に見ると、モバイルイメージングは成長ドライバーのひとつであると考えている」とした。

  • モバイルイメージングのトレンド

    モバイルイメージングのトレンド

また、「モバイルイメージングの技術進化にも、まだ余地がある。ソニーは、それを実現するための手段も数多く有している。競争軸となる解像度や感度、ダイナミックレンジといった画素の基礎特性においても、圧倒的ナンバーワンを目指していく。さらに、ToFイメージセンサーやEvent-based Vision Sensor(EVS)、近赤外領域センサーなどの進化にも取り組んでいる。RGBセンサーから得た2Dの画像情報に加えて、深度、時間、スペクトルといった別次元の情報を付加することで、モバイルイメージングの提供価値をさらに高められる。これだけ多種多様なセンサー技術を持つ企業はほかにはない。センサー技術としての総合力は圧倒的な強みになる」と自信をみせた。

  • モバイルイメージングの技術進化

    モバイルイメージングの技術進化

なお、2021年末に発表した世界初の2層トランジスタ画素技術の量産を開始したことを報告。「ダイナミックレンジの拡大と、低ノイズを実現する差異化技術として、2023年度は、この商品のローンチに注力していく」と述べた。

また、「ソニーのイメージセンサーは、世の中に新たな撮影文化を作りだすことに貢献している。それを支えるのは、人間が持つ感動したいという普遍的な動機である。世界ナンバーワンのイメージセンサー企業として、新たな技術が具現化することをリードしていく」と語った。

車載用イメージセンサーの飛躍の年となった2022年度

車載用イメージセンサーについては、ADASや自動運転の普及によって、安心安全を支える車載カメラの需要が増加すると予測。とくに、ソニーの注力市場である高付加価値領域が今後の成長を牽引すると見ている。

  • 車載用イメージセンサーの成長見通し

    車載用イメージセンサーの成長見通し

車載用イメージセンサー市場におけるソニーの金額シェアは、2021年度には9%であったが、2022年度には25%に拡大。「2022年度は売上高を大きく伸ばすことができ、飛躍の年となった。業界におけるプレゼンスを高めることができた」とコメント。2025年度には39%の金額シェアを目指すという。

  • 車載用イメージセンサー市場におけるソニーの金額シェア目標

    車載用イメージセンサー市場におけるソニーの金額シェア目標

「成長機会を確実なものにするため、世界中の自動車OEMや、パートナーとのエンゲージメントを強化している。2025年度の計画として、グローバルトップ20社の自動車OEMのうち、75%との取引を目指す計画を打ち出していたが、2022年度も順調に商談を獲得できた。2025年度には85%に達する見通しである」と、計画を上方修正した。

また、センサーのハードウェアに加えて、ソフトウェアでも付加価値を提供。社外環境を高精度に認識し、その認識結果もとに自動で地図を生成。スムーズな駐車支援を行える環境を提案するという。2023年4月に発売された日産セレナ e-POWERでは、プロパイロットパーキング機能に、このソフトウェア技術を採用しているという。 車載用イメージセンサーは、2022年度は前年比倍増の伸びを見せており、「2023年度も同様のスピード感でいきたい。収益貢献は2024~2025年度に始まることになる」とコメントした。

ソリューションとしてイメージセンサーの活用の幅を拡大

一方、ソリューション領域における取り組みについても説明した。

ソリューション分野の中核となる「AITRIOS(アイトリオス)」は、多種多様なイメージセンサーを活用したソリューションを効率的に開発、導入できるように支援するプラットフォームで、映像や画像情報が十分に活用されてこなかった市場をターゲットとした提案活動を行っているという。

具体的には、小売や物流、工場の現場で、属人的に運用されてきた業務のDXを推進し、課題解決につなげる提案を推進。AITRIOSは、2022年末から有償サービスの提供を開始しており、これにより、各種の実証実験が加速しているという。

小売業界では、AITRIOSとインテリジェントビジョンセンサー「IMX500」を組み合わせて、コスト削減と売上向上を目的に、人流解析、在庫検知、広告サイネージ分析向けソリューションを開発し、実証実験を開始。システム開発負荷の低減や、低コストでの運用、プライバシーに配慮した運用が可能になるという。

物流分野では、NECとともに、物流倉庫DXの実証実験を開始。「IMX500」を搭載したAIカメラにより、空の棚を可視化し、その情報を作業員に通知し、物流倉庫内の入庫とピッキング業務におけるオペレーション課題を解決。生産性向上につなげることができるという。

  • 「AITRIOS(アイトリオス)」のアプリケーション例

    「AITRIOS(アイトリオス)」のアプリケーション例

なお、ソニーセミコンダクタソリューションズでは、2023年4月に、英Raspberry Piに出資することを発表している。

「Raspberry Piは全世界4000万台以上の出荷実績と、230万人以上のアクティブユーザーを持ち、巨大な開発者コミュニティを構築している。世界中のRaspberry Piユーザーに、IMX500とAITRIOSを提供し、AITRIOS上で使用できるアプリケーションやAIの開発を加速する」と述べ、「今後も、AITRIOSのエコシステム構築に向けて、様々な企業とのパートナーシップを検討していく。AITRIOSを将来の事業の柱とすべく、研究開発投資を継続していく」と語った。

熊本に新工場建設に向けた新たな用地を取得

今後の投資計画についても説明した。

ソニーグループの第4次中期経営計画期間中となる2021~2023年度におけるイメージセンサーへの累計設備投資は約9000億円を見込んでおり、次期中期経営計画の2024~2026年度でも、現中期経営計画と同程度の投資が必要になると考えているという。

「今後も成長投資は継続していくことになる。だが、足元の不安定な市況を踏まえると、今後の需要動向を現時点で正確に見極めることは難しく、今後の投資計画は慎重に精査していく必要がある。市場環境の変化を注視しながら、あらゆる可能性を想定し、検討を進めていく」と述べた。

その一方で、熊本県合志市で新たな土地の取得を決定したことについても触れ、「不透明な状況のなかでも、長期視点に立ち、将来の準備を進めている。不確実性を念頭に置きながらも市況が回復した際に成長機会を確実に取り込めるように、先を見据えて準備を行っていく」と語った。

さらに、ロジックウェハの調達を、重要な経営課題と位置づけ、「2022年度までの大きな課題であったロジックウェハの需給ギャップは解消したが、今後の事業成長を想定し、将来に向けた手当てが必要である。TSMCの日本工場であるJASMを通じて、中長期で安定的に調達できる準備を進めていく」と語った。

  • ロジック部の調達を国内でも可能とする体制構築が進められている

    CMOSイメージセンサーの増産に向けた用地取得に加え、ロジック部の調達を国内でも可能とする体制構築が進められている

ESGに関する取り組みにも触れ、I&SS独自のESG指針として、新たに「サステナビリティコンパス」を策定したことを明らかにした。

清水社長兼CEOは、「I&SS分野は、ソニーグループのなかでも、環境負荷に対する責任が大きいという認識を持っている。地球、社会、人というそれぞれのステークホルダーに対して、持続可能な社会をつくるためのゴールをもとに、2030年に向けて目指す社会像と、重要課題を定義している」と位置づけた。

目指す社会像のひとつとして掲げた「資源を廃棄せず、リユース、リサイクルされている社会」の取り組みとして、グローバルシャッター技術である「Pregius」をあげ、「高速で、画像の歪みがなく、高解像度、低ノイズを実現する技術であり、インダストリー領域で広く活用されている」とした。TOMRAのペットボトルの自動回収機では、利用者を待たせることなく、資源の分別が瞬時に行うことができるが、ここに、Pregiusを採用したイメージセンサーを活用していることも紹介した。このポットボトル自動回収機はセブン-イレブンの店頭などに設置されているという。

  • グローバルシャッター技術を環境技術に応用する例も出てきた

    グローバルシャッター技術を環境技術に応用する例も出てきた

また、人材への取り組みについても説明し、「半導体産業は慢性的に人材が不足している。人材獲得は産業全体の課題だと認識している。自社のことだけを考えるのではなく、産学連携による半導体人材の育成がこれまで以上に必要である。半導体産業の未来を担う人材が育つように、様々な取り組みを通じて貢献したい。人材への取り組みは経営における最重要テーマのひとつに位置づけている。優秀な人材を招き、半導体産業を盛り上げていきたい」などと語った。