米国の宇宙企業ヴァージン・ギャラクティックは2023年5月8日、サブオービタル宇宙船「スペースシップツー」の宇宙への飛行試験を、早ければ5月下旬にも再開すると発表した。

同機と発射に使う航空機は、2021年7月に宇宙への飛行試験を行ったのち、問題が見つかったため大規模な改修が行われていた。

同社はまた、6月下旬から乗客を乗せた商業飛行を開始したいとしている。

  • 滑空飛行試験を行う「スペースシップツー」の「VSSユニティ」

    4月26日、宇宙への飛行試験の再開に向けた滑空飛行試験を行う「スペースシップツー」の「VSSユニティ」 (C) Virgin Galactic

ヴァージン・ギャラクティックとは?

ヴァージン・ギャラクティック(Virgin Galactic)は、実業家のリチャード・ブランソン氏らが立ち上げた米国企業で、自社開発の宇宙船による、サブオービタル宇宙旅行の実現を目指している。

サブオービタル飛行とは、宇宙の入り口とされる高度80~100kmまで上昇したのち、すぐに降下して帰ってくるような宇宙飛行のことである。地球の軌道に乗る宇宙船とは異なり、宇宙空間にいられるのはわずか数分間だが、窓から青い地球や黒い宇宙空間を眺めることができ、船内は微小重力(いわゆる無重力)状態になるため、宇宙にいる感覚を味わうことができる。また、宇宙旅行だけでなく、微小重力環境を生かした実験や、天体観測などの需要が見込まれている。

ヴァージンが開発している「スペースシップツー(SpaceShipTwo)」は、空中発射型の宇宙船で、「ホワイトナイトツー(WhiteKnightTwo)」という飛行機で上空まで運ばれたのち、分離され、ロケットエンジンで宇宙へと飛行する。

スペースシップツーはこれまでに「VSSエンタープライズ」と「VSSユニティ」の2機が製造され、ホワイトナイトツーは「VMSイヴ(Eve)」の1機のみが製造され、運用されている。

VSSエンタープライズは2014年に墜落事故を起こし喪失したものの、VSSユニティは2018年に宇宙への飛行試験に成功した。

そして2021年7月11日には、ブランソン氏ら6人を乗せて飛行し、実際の宇宙旅行と同じ作業や飛行手順を確認するとともに、安全性や快適性をアピールした。

  • ヴァージンのリチャード・ブランソン氏

    2021年7月11日、宇宙飛行試験を経験した、ヴァージンのリチャード・ブランソン氏 (C) Virgin Galactic

しかし、その後の米国連邦航空局(FAA)の調査により、この飛行試験においてVSSユニティが上昇中、あらかじめ設定された飛行経路から外れたことが明らかになり、またパイロットがそれを認識していたにもかかわらず飛行を続けたことも問題視された。

さらに、ホワイトナイトツーにある、スペースシップツーの取り付け部(パイロン)の強度に問題が見つかり、スペースシップツーも搭載機器の品質問題が明らかになり、改修が行われた。

飛行経路の問題については、約2か月で改善策が示され、FAAも飛行許可を与えたものの、ホワイトナイトツーには大規模な改修が必要になったことで時間がかかり、2年近く飛行が止まることになった。

そして4月26日、改修を終えたホワイトナイトツーにより、VSSユニティの滑空飛行試験が実施され、無事に成功した。

これを受けヴァージンは、5月下旬にも、約2年ぶりとなる宇宙への飛行試験を行うと発表した。

この飛行試験は「ユニティ25」と名付けられ、乗客を乗せた商業飛行を開始する前の最終試験を目的としている。出発地と着陸地は、ニューメキシコ州にあるスペースポート・アメリカとなる。

コマンダー(指揮官)は同社のマイク・マスッチ氏が務め、CJ・スターカウ氏がパイロットを務める。また、ミッション・スペシャリストとして、同社のジャミラ・ギルバート氏、クリストファー・ヒューイ氏、ルーク・メイズ氏、ベス・モーゼス氏の4人も搭乗する。

商業飛行は6月下旬にも実施へ

ヴァージンによると、ユニティ25が成功すれば、6月下旬にも初の商業飛行を実施することを目指しているという。

このミッションは「ギャラクティック01 (Galactic 01)」と呼ばれ、イタリア空軍が購入した研究飛行として行われる。イタリア空軍では、飛行中の環境が人体に与える影響や、微小重力環境での物質の実験などを行うとしている。

また、ヴァージンはすでに、一般向けのチケットの販売も行っており、その購入者についても順次、飛行できるようになるという。チケットは現在、1人あたりの約45万ドルで販売されている。

同社は以前、VSSユニティを月に1回程度飛行できるようになると語っている。

ヴァージンはまた、次世代の宇宙船「スペースシップIII」の1号機「VSSイマジン(Imagine)」、2号機「VSSインスパイア(Inspire)」の開発、製造も進めている。

さらに、「デルタ級(Delta class)」という新型宇宙船の開発も進めている。デルタ級は、最大6人の乗客を乗せることができ、メンテナンス性などを向上させ毎週1回の飛行が可能になるなど、より商業飛行に適した宇宙船になるという。

デルタ級の生産は今年から始まる予定で、2025年後半から実験装置などを搭載した飛行を開始し、2026年には乗客を乗せた商業飛行を開始する予定だとしている

  • 「VSSユニティ」

    宇宙への飛行試験の再開に向け、滑空飛行試験を行う「スペースシップツー」の「VSSユニティ」 (C) Virgin Galactic

参考文献

Virgin Galactic Announces Crew for Return to Space
Virgin Galactic Announces First Quarter 2023 Financial Results And Provides Business Update