米国の宇宙旅行会社ヴァージン・ギャラクティックは2021年7月11日、開発中の宇宙船「スペースシップツー」による宇宙飛行試験を実施した。

創業者のリチャード・ブランソン氏も搭乗し、飛行前の訓練から宇宙飛行まで自ら体験。商業運航に向け、安全性や快適性をアピールした。

  • スペースシップツー

    微小重力環境を楽しむリチャード・ブランソン氏ら (C) Virgin Galactic

ユニティ22

ブランソン氏ら6人を乗せたスペースシップツーの2号機「VSSユニティ」は、日本時間11日23時40分、ニューメキシコ州にある宇宙港「スペースポート・アメリカ」から、専用の飛行機「ホワイトナイトツー」に搭載されて離陸。上空高度約15kmまで上昇したのち、12日0時25分に分離され、ハイブリッド・ロケット・モーターに点火した。

VSSユニティは最高速度マッハ3で勢いよく上昇し、そして慣性飛行を経て、高度約86kmの宇宙空間に到達した。

その後、機体を「フェザー・モード」と呼ばれる姿勢にし、大気圏を降下したのち、翼で滑空飛行し、離陸から約1時間後の0時38分にスペースポート・アメリカに無事着陸した。

  • スペースシップツー

    宇宙空間に到達したVSSユニティ (C) Virgin Galactic

VSSユニティによる宇宙飛行は今回が4回目だが、これまでの試験飛行は、いずれも機長と副操縦士の2人のみか、もしくは乗客役として乗り込んだ同社の従業員1人を含む3人で行われていた。今回の「ユニティ22」ミッションは、ブランソン氏を含め6人が搭乗し、史上最多かつ、より実際の商業運航に近い形での試験となった。

ブランソン氏は、実際の乗客が行うのと同じ、5日間の飛行前訓練や準備を経て、飛行に参加。「民間宇宙飛行士(乗客)の体験を評価した」という。ちなみにブランソン氏は冒険家でもあり、過去には熱気球による大西洋や太平洋の横断にも成功した実績をもつ。今回の飛行で宇宙への冒険にも成功したことになる。

飛行後、ブランソン氏は「私は子供のころから、この瞬間を夢見てきました。しかし、実際に宇宙から見た地球の景色は、想像を大きく超えるものでした」と感動を口にした。

「私たちはいま、新たな宇宙時代の最前線にいます。私はヴァージンの創業者として、そして宇宙を飛んだ人間の一人として、素晴らしい顧客体験を味わえたことを光栄に思います。この同じ経験を、世界中の宇宙に行きたい人と共有するのが待ち遠しいです」(ブランソン氏)。

ブランソン氏のほか、同社の従業員3人も乗客役として搭乗。ベス・モーゼス(Beth Moses)氏は2019年にも宇宙飛行したことがあり、今回の飛行では試験責任者を務めた。コリン・ベネット(Colin Bennett)氏は、船内の設備の確認や、安全性・快適性の評価を実施。シリシャ・バンドラ(Sirisha Bandla)氏は、フロリダ大学の実験装置を用いて、飛行中に実験を行う際の手順の評価を行った。

VSSユニティの操縦は、これまでも同機で宇宙への飛行実績があるデイヴィッド・マッケイ(David Mackay)氏(機長)と、マイケル・マスッチ(Michael Masucci)氏(副操縦士)が担当した。

同社のマイケル・コルグラツィエ(Michael Colglazier)CEOは「今日は、弊社にとって画期的な成果を出した日であり、新たな商業宇宙産業にとって歴史的な瞬間となりました。試験飛行を成功させるたびに、私たちは次世代の宇宙飛行士への道を切り開いています。パイロットや乗組員をはじめとする才能豊かなチームに感謝したいと思います。彼らの献身的な努力が、今日の出来事を可能にしたのです。彼らは、宇宙へのアクセスを拡大するための扉を開いてくれているのです」と語った。

  • スペースシップツー

    ユニティ22ミッションに乗客役として参加した4人の搭乗員。左から、コリン・ベネット氏、ベス・モーゼス氏、シリシャ・バンドラ氏、リチャード・ブランソン氏 (C) Virgin Galactic

商業飛行は2022年からを予定

ヴァージン・ギャラクティック(Virgin Galactic)は2004年に設立された企業で、「サブオービタル飛行」と呼ばれる形式での宇宙旅行の実現を目指している。

サブオービタル飛行は弾道飛行とも呼ばれ、地球の軌道に乗る宇宙船とは異なり、宇宙の入口である高度80~100kmまで行って、すぐに降下して帰ってくるというもの。宇宙空間にいられるのはわずか数分間だが、窓から青い地球や黒い宇宙空間を眺めることができ、また船内は微小重力(いわゆる無重力)状態になるため、宇宙にいる感覚を味わうことができる。

また、宇宙実験の需要もあり、とくに航空機でも人工衛星でもできない、サブオービタル飛行ならではの実験や研究も多く、米国航空宇宙局(NASA)も期待を寄せており、 第一線で活躍する惑星科学者を乗せた惑星や小惑星の観測などが計画されている。

同社の宇宙船「スペースシップツー(SpaceShipTwo)」は、全長18.3m、高さ5.5m、翼長8.3mの、翼をもった小型の機体で、2人のパイロットと6人の乗客、あわせて最大8人が乗ることができる。

スペースシップツーはこれまでに2機が造られたが、1号機の「VSSエンタープライズ(Enterprise)」は2014年に墜落事故で喪失。現在は2号機のVSSユニティ(VSS Unity)が試験飛行を行っている。

スペースシップツーは「ホワイトナイトツー」と呼ばれる双胴機に吊るされて高度約5万ft(約15km)へ運ばれ分離。そこから機体後部に搭載したロケットを噴射して上昇。宇宙空間に達したのち降下し、最終的には滑空飛行して滑走路に着陸する。

なお、「どこからを宇宙とするか」にはいくつかの定義があり、ヴァージンでは米軍や米国航空宇宙局(NASA)が定めた「高度80km(50マイル)以上が宇宙」という定義を採用している。

VSSユニティはこれまでに、ホワイトナイトツーに吊るされて飛行する試験を皮切りに、単独での滑空飛行試験、ロケットを噴射しての動力飛行試験を経て、2018年12月13日には初の宇宙飛行に成功。試験飛行はこれまでに22回、そのうち宇宙飛行は4回行われている。

同社では今後、さらに2回の試験飛行を予定。商業運航の開始は2022年を予定しているという。すでに米国連邦航空局(FAA)から、運航の許可も取得している。

運賃については明らかにされていないが、以前は25万ドルとされていた。

また、スペースシップツーを全面的に改良した次世代機「スペースシップIII」の開発も進んでおり、現時点で「VSSイマジン(Imagine)」と「VSSインスパイア(Inspire)」の2機が製造されている。VSSイマジンに関しては地上試験が始まっており、今夏からは滑空飛行試験も始まる予定となっている。

サブオービタルでの宇宙旅行をめぐっては、ネット通販Amazon創業者のジェフ・ベゾス氏の宇宙企業ブルー・オリジンも力を入れており、7月20日にはベゾス氏らが搭乗し、初の有人飛行試験を予定している。

今回の飛行前日、ベゾス氏はInstagramを通じ、「あなた(ブランソン氏)とチーム全員にとって、明日の飛行が安全かつ成功しますように。幸運を祈ります!」とエールを送り、飛行後は「飛行の成功おめでとうございます! 私も宇宙旅行者の1人になれるのが待ちきれません!」とコメントしている。

  • スペースシップツー

    スペースシップツーを全面的に改良した次世代機「スペースシップIII」の1号機「VSSイマジン」 (C) Virgin Galactic

参考文献

Virgin Galactic Successfully Completes First Fully Crewed Spaceflight - Virgin Galactic
Virgin Galactic Announces First Fully Crewed Spaceflight - Virgin Galactic