Analog Devices(ADI)の日本法人であるアナログ・デバイセズは3月7日、同社が2021年に発表した低ノイズレギュレータ「Silent Switcher 3」が量産を開始したことを発表。併せて同製品を搭載したデモを日本で初披露した。

電子機器を駆動させるために必須の電源だが、その主要性能指標としては、「フォームファクタの小型化」「EMIの低減」「高効率化」といったものが挙げられる。フォームファクタを小型化すれば、基板スペースを削減できるが、密度が高まることに伴って廃熱の問題が生じるため、高効率化と組み合わせて、熱設計をいかにして容易なものにするかが重要となってくる。またEMIはスイッチング周波数を高めていくと顕著になっていき、その低減にはノイズを抑制することが求められる。スイッチング周波数が高くなると、外付けのインダクタなども小型化できるため、コンポーネントレベルでの小型化、BOMコストの低減といったメリットを得ることもできる。

こうした市場背景からSilent Swircherシリーズは開発され、第1世代のSilent Swircher 1は2013年に、第2世代のSilent Swircher 2は2017年にそれぞれ発表され、第3世代となるSilent Swircher 3シリーズも2021年に発表されていたが、新型コロナの影響などもあり、ようやく今回、本格的な量産が開始されたという。

Silent Swircher 3シリーズは1シリーズならびに2シリーズの特徴を受け継いだうえで、さらなる機能強化が図られたもの。1シリーズでは、ボンディングワイヤで発生する寄生素子をフリップチップにすることで高調波を抑制したほか、降圧コンバータにおいてスイッチングによって生じる電流ループ(ホット・ループ)などを抑制することによるEMI性能の向上ならびに高いスイッチング周波数での高い効率の実現した。

  • Silent Switcher 1シリーズの技術的特徴

    Silent Switcher 1シリーズの技術的特徴

2シリーズでは、LQFNパッケージ内に入力コンデンサを組み込むことで、すべてのホット・ループとグランドプレーンを内蔵することによるさらなる低EMIおよび、プリント基板上の外付け部品点数の削減を実現してきた。

  • Silent Switcher 2シリーズの技術的特徴

    Silent Switcher 2シリーズの技術的特徴

Silent Switcher 3シリーズでは、これらに加え、同社のウルトラローノイズLDOの技術を活用することで、スイッチングレギュレータでありながら(LDOは搭載せず)、10Hz~100kHzの低周波帯でのノイズ性能を改善しつつ、LDOでは対応が非現実的な大電流領域での使用も可能としたという。

  • Silent Switcher 3シリーズの技術的特徴
  • Silent Switcher 3シリーズの技術的特徴
  • Silent Switcher 3シリーズの技術的特徴

現在、Silent Switcher 3シリーズとしては入力電圧18Vに対応した5製品がラインアップされている。このうち、今回量産開始がアナウンスされたのは出力電流が2Aの「LT8622S」および同4Aの「LT8624S」の2製品。これ以外の同8Aの「LT8625S/SP」および「LT8625SP-1」ならびに同16Aの「LT8627SP」はまだサンプル出荷の段階だという(製品型番の後ろがSPのものは、高温環境下での使用を想定してヒートシンクを取り付けるためのダイパッドが付いたモデル)。

  • Silent Switcher 3シリーズのポートフォリオ
  • Silent Switcherシリーズ全体のポートフォリオ
  • Silent Switcher 3シリーズのポートフォリオと、Silent Switcherシリーズ全体のポートフォリオ

音(ノイズ)を活用したデモシステム

今回、同社が日本で初めて公開したデモシステムは、Silent Switcher 3の超低LFノイズを見せるためのもの。システムとしては、Silent Switcher 2相当のマイクロモジュール「LTM8078」を搭載したボード、ローノイズLDO「LT3081」を搭載したボード、そしてサンプル出荷中の「LT8625SP」を搭載したボードの3種類を使い分けて、バッテリーからの電力供給を受けた、各ボードの出力電圧のノイズを、60dBのアンプを経由して、アクティブスピーカーで音として出すというものとなっている(アンプとアクティブスピーカーもバッテリー駆動)。

  • Silent Switcher 3を用いたデモシステムの概要

    日本初公開となったSilent Switcher 3を用いたデモシステムの概要

実際に聴いてみると、LTM8078がもっともホワイトノイズが大きく、スペクトラムアナライザ(スペアナ)の時間波形としては増幅後の振幅が800mV程度、LT3081が若干抑えられ、スペアナの時間波形の振幅は増幅後で200mV程度、そしてLT8625SPでは、スペアナの時間波形の振幅は増幅後で100mV程度まで抑えられており、ホワイトノイズの音としても、かすかに聞こえる程度となっていた。

  • 実際のデモの様子

    実際のデモの様子。ノイズの波形がわかりやすいようにスペアナを接続しているが、ホワイトノイズを聴くだけなら不要

なお、このデモシステム(ボード)については、日本に届いたばかりであり、現状、そのまま提供する予定はないとのことだが、今後、NDAなどを交わした顧客には提供するなどと取り組みも検討していきたいと同社では説明している。

  • LT8625SPを搭載したデモボード

    LT8625SPを搭載したデモボード。中心のチップがLT8625SP。表面にヒートシンク用のダイパッドがあるのがわかる