軌道上の物体を監視している民間企業「レオラボズ(LeoLabs)」は2023年1月28日、地球低軌道において、運用を終えスペース・デブリ(宇宙ごみ)となったロケット機体と人工衛星が、約6mの距離にまで接近、ニアミスしたと発表した。

万が一衝突していれば、数千個もの新たなデブリが発生していた可能性があり、「最悪のシナリオ」になる一歩手前だったという。

近年、地球低軌道は混雑の一途を辿っており、今後同様の事態が発生する可能性が増していくことが懸念されている。

  • スペース・デブリの想像図

    スペース・デブリの想像図 (C) NASA

2つのデブリが約6mにまで接近

レオラボズによると、2つのデブリは日本時間27日18時58分20秒ごろ、南極大陸の上空高度984kmで最接近した。

接近したのは、ソ連が1986年に打ち上げた「コスモス3M」ロケットの第2段機体と、ロシアが1994年に打ち上げた軍事衛星「パールス」(コードネーム「コスモス2361」)の2機で、レーダーによる観測では、両者は相対速度約11km/sで、約6m(誤差数十m)の距離にまで接近したとみられる。両者ともすでに機能しておらず、軌道変更などは不可能だった。とくにパールスには、重力を使って姿勢を安定させるための長さ17mのブームが装備されていることから、衛星の姿勢によっては衝突していた可能性は十分にあった。

もし衝突していれば、数千個にも及ぶ新たなデブリが発生し、何十年にもわたって軌道上に残り続けていた可能性がある。それほどのデブリが発生すると、この周辺の軌道では衛星の運用が難しくなるなど、「最悪のシナリオ」になっていたかもしれない0。

各国で進むデブリ監視と対策

米国航空宇宙局(NASA)によると、現在地球の周囲にあるデブリは約3万個を数え、小さすぎて検出できないものも含めるとさらに何倍もの数が潜んでいると考えられている。

とくに、今回ニアミスが起きた高度を含む、高度950~1050kmの軌道は、運用を終えたロケット機体や衛星、それらが爆発、衝突するなどして生まれたデブリ、さらには衛星攻撃兵器の試験で発生したデブリなどが多数存在している。ちなみに、コスモス・ロケットだけに限っても、この周辺の軌道に向けて通算160機ほどが打ち上げられており、第2段機体もそれとほぼ同じ数だけ現存している。

そのため、衝突が発生しやすい危険な領域(bad neighborhood)として知られており、レオラボズによると、2022年6月から9月の間だけで、この領域で約1400件のニアミスがあった(ただし今回ほど接近した例はない)という。

こうしたデブリは、すでに人類の宇宙活動に大きな影響を与えている。とくに宇宙飛行士が滞在する国際宇宙ステーション(ISS)にとってデブリは大敵であり、万が一衝突すれば命に関わる事態にもなりかねない。そのため、デブリが接近した際にはそれを回避するための軌道変更が行われており、これまでに30回以上を数える。

さらに近年では、数千から数万機もの数の小型衛星を打ち上げて通信などを提供する「衛星コンステレーション」の構築が活発になっており、今後衛星の数はこれまでの何倍にも増え、その分デブリと衝突する可能性も、またそれらの衛星がデブリになる可能性も増すことになる。

こうした中、デブリとの衝突や発生を未然に防ぐため、さまざまな動きが始まっている。

軌道上の物体を監視、追跡することを「宇宙状況把握」といい、米国では宇宙軍が主導して実施し、軌道上にある大半の衛星やデブリをカタログ化してデータを配布している。また、レオラボズのような民間企業も独自に監視、追跡に取り組んでいる。

日本でもかねてより宇宙航空研究開発機構(JAXA)が行ってきたほか、2020年には航空自衛隊にスペース・デブリなどを監視するための「宇宙作戦隊」が誕生。2022年には新編された「宇宙作戦群」に編合され、2023年度からは宇宙状況把握の本格的な運用が始まることになっている。安全保障において衛星を活用することが必要不可欠となったこともあり、今後自国の衛星を守るためにも、宇宙状況把握はさらに重要なものとなろう。

また、デブリを出さないようにするため、国際機関間スペース・デブリ調整委員会(IADC)や国連、各国の宇宙機関では、ロケットの打ち上げ時や衛星の運用終了時などにデブリの発生を極力抑えるための基準が作られており、その基準にしたがってロケットや衛星の運用が行われている。

また、衛星コンステレーションの代名詞ともなった「スターリンク」を構築しているスペースXでは、衛星が運用を終えた際には速やかに軌道から離脱、処分させたり、デブリとの接近を自動で回避する機能を備えたりといった独自の、先進的な取り組みを行っている。

さらに、すでに軌道にあるデブリを減らそうという動きもある。JAXAや日本のベンチャー企業「アストロスケール」は、大量のデブリの発生源となりうるロケット機体などを除去する技術の研究・開発を行っており、早ければ今年にも、日本が過去に打ち上げてデブリ化したロケット上段への接近・近傍運用の実証ミッション「ADRAS-J」が行われることになっている。

デブリ除去をめぐっては、スカパーJSATや川崎重工のほか、欧州宇宙機関(ESA)など、各国の宇宙機関や民間企業で研究開発が進んでいる。

参考文献

LeoLabsさんはTwitterを使っています: 「Too close for comfort... Two large, defunct objects in #LEO narrowly missed each other this morning - an SL-8 rocket body (16511) and Cosmos 2361 (25590) passed by one another at an altitude of 984km. #SpaceDebris / Twitter
ESA - Space debris by the numbers
商業デブリ除去実証(CRD2)|JAXA|研究開発部門