ロシア国防省は2021年11月16日、衛星攻撃兵器システムによる衛星の迎撃試験を実施したと発表した。ミサイルは同国の老朽化した衛星に命中。試験は成功したという。
米軍や米国航空宇宙局(NASA)なども試験が行われたことを確認している。
衛星の破壊にともない、多数の宇宙ごみ(スペース・デブリ)が発生。今後数十年にわたり、他の衛星に衝突するなどの危険性が高まる重大な事態となった。
コスモス1408の迎撃
ロシアは今回の試験について、実施日時などの詳細は明らかにしていない。
米国の宇宙コマンドによると、試験が実施されたのはモスクワ標準時の2021年11月15日で、「direct-ascent anti-satellite missile」と呼ばれる地上発射型の対衛星ミサイルが使われたという。
ミサイルの発射場所についても明らかになっていないが、直前にロシアから出されたNOTAMから、ロシア北西部のアルハーンゲリスク州にあるプレセーツク宇宙基地から発射されたものとみられている。
発射されたミサイルは、軌道を周回していた衛星「コスモス1408(Kosmos-1408)」に命中した。迎撃された時点で、コスモス1408は近地点高度645km、遠地点高度679km、軌道傾斜角82.50°の極軌道を周回していた。
コスモス1408は1982年に当時のソヴィエト連邦が打ち上げた衛星で、電子情報偵察(ELINT)を目的とした「ツィリナーD(Tselina-D)」と呼ばれる衛星の1機とされる。打ち上げから39年が経過していることから、すでに運用は終わっていたものとみられる。この衛星を標的としたということは、ロシアが公式に明らかにした数少ない詳細のひとつでもある。
ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は、試験の成功を伝える報道発表の中で、「私たちの衛星攻撃兵器システムは、古い衛星に対して金細工職人のような正確さで命中し、試験は完全に成功しました」と述べた。
米宇宙コマンドによると、この試験にともない、軌道上に多数の宇宙ごみが発生したことを確認。現時点で、追跡可能な大きさのものだけでも1500個以上、また追跡不可能な小さなものまで含めると数十万個にまで達する可能性が高いとしている。
ショイグ国防相は「試験にともない発生した破片は、あらゆる宇宙活動を脅かすものではありません」と主張する。
しかし実際には、試験の実施直後、宇宙ごみが接近する可能性があるとして、国際宇宙ステーション(ISS)に警報が発令され、滞在中の宇宙飛行士は緊急脱出に備え、係留してある宇宙船に避難する事態となった。
米宇宙コマンドや米国航空宇宙局(NASA)、軌道上の物体を監視・追跡している欧米の民間企業などは、これらの宇宙ごみは今後、数年から数十年にわたって軌道上に留まると分析。ショイグ国防相の言葉に反し、「ISSに滞在する宇宙飛行士や、その他の有人宇宙活動、衛星に重大なリスクをもたらす可能性がある」としている。
NASAのビル・ネルソン長官は「この無責任かつ無謀、そして危険な行動に憤慨しています。有人宇宙飛行において長い歴史を持つロシアが、ISSや中国の宇宙ステーションに滞在している宇宙飛行士はもちろん、自国の宇宙飛行士をも危険にさらすようなことをするとは信じられません」と非難する声明を発表している。
「すべての国には、衛星攻撃兵器の試験のような意図的に宇宙ごみを発生させるような行動は慎み、安全で持続可能な宇宙環境を守る責任があります」。
また、「NASAは、軌道上の宇宙飛行士の安全を確保するために、今後も宇宙ごみの監視を続けます」としている。
各国による衛星攻撃兵器の試験
今回の試験に使われたのは、PL-19「ヌードリ(Nudol)」と呼ばれる、対衛星ミサイルだったとみられる。
ヌードリは弾道弾迎撃ミサイルとして知られるが、対衛星ミサイルとして応用することもできるとされる。大陸間弾道ミサイルも衛星も、ともに宇宙空間を飛翔するため、それを迎撃するための技術にはつながりがある。
2014年以降、プレセーツク宇宙基地からの発射試験が米国によって10回程度確認されている。ただ、これまで実際に衛星を破壊したことはなく、今回の試験が初めての事例となった。
衛星攻撃兵器は、冷戦時代に米ソによって活発に開発、試験が行われた。冷戦後はやや沈静化したものの、ソ連/ロシアは1990年代以降も開発を続け、今回発射されたとみられるヌードリのほか、地対空ミサイル・システム「S-400」、「S-500」も対衛星ミサイルとして応用できる能力があるとされる。
さらに、「キラー衛星」と呼ばれる、迎撃相手の衛星と同じ、あるいは交差する軌道に衛星を乗せて、体当たりや、自爆してその破片をぶつけることで破壊したり、レーザーで焼いたり、電磁波で電子的に破壊したり、通信妨害(ジャミング)をかけたりする形式の衛星攻撃兵器も開発し、実際に打ち上げ、実証試験を行っているものとみられている。
米国も弾道弾迎撃ミサイルの応用として研究、開発を続けており、2008年には故障した自国の偵察衛星「USA-193」が大気圏に再突入する直前の機会を利用し、弾道弾迎撃ミサイル「SM-3」を改造したミサイルで迎撃する「オペレーション・バーント・フロスト」に成功した。
さらに中国も衛星攻撃兵器の開発、試験を続けており、2007年には実際に自国の衛星を標的とし、迎撃、破壊する試験も行った。
インドも開発に力を入れており、2019年にはやはり自国の衛星を標的とした迎撃・破壊試験を行っている。