千葉工業大学(千葉工大)は2月15日、全9基で構成される「革新的衛星技術実証2号機」の1基として、宇宙航空研究開発機構(JAXA)のイプシロンロケット5号機により2021年11月9日に打ち上げられ、高度約570kmの地球周回軌道に投入された同大学の惑星探査研究センター(PERC)の超小型衛星2号機である宇宙塵探査実証衛星「ASTERISC(アスタリスク)」が、PERCが独自開発した大面積膜型ダストセンサーの展開に成功し、初期運用の段階で軌道上の粒子の観測に成功したことを発表した。

また、国産キューブサットバスシステムの各種機能の技術実証項目をすべて達成してミニマムサクセスで初期運用を完了し、今後は観測運用に移行することも併せて発表された。

  • ASTERISC

    ASTERISCの外観写真。(左)膜型ダストセンサーの展開前の外観。(右)膜型ダストセンサー(左方向に広げられたオレンジ色の膜)展開後の外観。膜型ダストセンサーの膜面に接着されているのは、受信用の8個の圧電素子と2個の試験信号用の圧電素子 (出所:千葉工大プレスリリースPDF)

独自の惑星科学探査を高頻度で継続的に行うことを目指し、2012年にPERCは超小型衛星プロジェクトを立ち上げ、その2号機となるASTERISCは、軌道上における宇宙塵と微小スペースデブリの観測を目的とする3Uキューブサットとなる。

ASTERISCはPERCを実施責任機関として、PERCと東北大学が共同で開発。その目的は、宇宙塵および微小なスペースデブリを観測することで、宇宙塵については、その性質(分布・量・軌道など)を調べ、最終的には地球などの惑星の進化や生命の起源に宇宙塵がどうかかわったのかを明らかにすることを目指している。

また一方の微小スペースデブリに関しては、中でも数百μmサイズのものをターゲットとしている。スペースデブリは10cm以下になると地上からはレーダーや光学観測で捉えるのが難しく、まして1mmを下回るようなものは、総数がどれぐらいあるのかも良く分かっておらず、今後の安全な宇宙活用のためにも、そうした微小デブリの定量的な観測および評価が求められているというが、現状、いずれの粒子ともに、ひっきりなしに衛星などに衝突するほど、高密度に存在していないことから、可能な限り大きな検出面積を有するダストセンサーを用いた観測が有望視されていた。しかし、従来の方式のセンサーを大型化することはコストの観点から容易ではなかったことから、PERCでは、容易に大面積化が可能な粒子観測装置として、膜状のダストセンサーシステムを開発することにしたという。

同システムは、ポリイミド製の膜に圧電素子(センサー)を接着し、粒子が膜に衝突することで発生する弾性波を電気信号として捉え、独自の信号処理を行うことにより、リアルタイムで粒子を観測するという仕組みを採用。粒子が膜に衝突しさえすれば検出できるので、膜の面積を大きくするだけで大面積のセンサーを容易に実現できる点が特徴となっている。

この展開型の膜型ダストセンサー(30cm×30cm)を展開するにあたっては、展開するタイミングは地上局から不可視のため、タイマーコマンドをあらかじめ衛星に送信・登録し、衛星が自律的に展開を実施した後に、千葉工大局でダウンリンクされたテレメトリデータから展開の成否が確認された。

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    展開された膜型ダストセンサーがオンボードカメラによって撮影された、ASTERISCによる自撮り画像。画像下側には固定されたパドル面が写っており、そこは千葉工業大学の校章とPERCのロゴが印字されているのが確認できる (出所:千葉工大プレスリリースPDF)

その結果、得られた姿勢データから展開実施時の反動による衛星姿勢の変化が見られ、さらにオンボードカメラ画像からは膜型ダストセンサーが設計通りの形状で展開していることが明らかとなった。また、展開後の膜型ダストセンサーを用いた試験観測においては、オンボードでノイズを除去するためのパラメータ調整と並行して、取得された波形データをダウンリンクしてデータ解析が進められているという。すでに真の粒子観測イベントと判定できるデータも得られているとのことで、膜型ダストセンサーの技術実証に成功したとしている。

  • ASTERISC

    実際にASTERISCが軌道上で取得した粒子観測データ。膜面上に接着された8個の圧電素子で同時に受信した波形を解析することで、ノイズと真の信号を明確に区別することが可能となっている (出所:千葉工大プレスリリースPDF)

なお、観測された粒子のサイズは0.1~1μm程度と推定され、膜型ダストセンサーが設計通りの感度を有することが確かめられたことから、今後、同センサーを用いた長期的な観測により、軌道上の粒子の量・飛来方向・運動量などを明らかにできることを期待するとしている。