東京大学(東大)は11月11日、半金属に赤外光を照射すると光学的性質が劇的に変化して巨大な屈折率分散が生じることを発見し、そのメカニズムを解明したと発表した。

同成果は、東大 物性研究所(物性研)の室谷悠太特任研究員、同・神田夏輝助教、同・松永隆佑准教授、同・池田達彦助教、同・吉信淳教授、同・小林洋平教授に加え、米国の研究者も参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する機関学術誌「Physical Review Letters」に掲載された。

強い光パルスが物質に当たった瞬間に何が起こっているのかを調べるためには、100fs以下の時間スケールでの応答を計測できる超高速分光技術が重要だが、光電場に対する物質の応答には、光を吸収せず電荷が偏るだけの応答と、光を吸収してエネルギーが物質に移る応答の2種類が混在しているため、両者を分離して調べる必要があり、精密な実験は容易ではないという。特に周波数の低い赤外域では、利用可能な光源や検出方法が限られるため、応答の超高速な時間変化を精密に調べることは困難だった。

そこで研究チームは今回、トポロジカル半金属のヒ化カドミウム「Cd3As2」薄膜を着目することにしたという。ヒ化カドミウム中の電子は質量が軽く、一部の電子が実効的に質量ゼロとして振る舞うことが発見されて以来、その性質に注目が集まっているという。

具体的には、周波数30THzの高強度マルチテラヘルツパルスをCd3As2に照射(ポンプ)し、応答の変化を12~45THzの広帯域で精密に計測(プローブ)する実験システムが開発され、ポンププローブ分光測定が行われた。その結果、ポンプの周波数よりわずかに下の28THzでは光吸収の増大が生じるのに対し、わずかに上の31THzでは逆に吸収が減少してむしろ光が増幅されることが発見された。このときCd3As2の屈折率も周波数に対して急峻に変化するという、巨大な屈折率分散を示すことも判明したとする。