今回、物性計測サブチームでは、強度に加えてほかにも粒子についてのさまざまなデータを取得することに成功したとする。それらの物性データを基にして、シミュレーションサブチームで実施したのが、リュウグウの歴史の再現シミュレーションだという。

黒澤上席研究員と玄田教授らは、物性計測サブチームが取得した粒子のさまざまな物性データ(密度、音速、比熱、熱膨張率など)を基に、リュウグウの状態方程式モデルを作成。状態方程式は、物質内に発生する圧力を密度と温度の関数として表す式であり、これにより、リュウグウ母天体が過去の天体衝突で破壊された際の温度、圧力上昇度を調べることが可能になるという。

リュウグウ母天体は直径100kmほどだったと推定されており、およそ8億年前に大規模な天体衝突で破壊されたと考えられている。このときに飛び散った破片からできたのがリュウグウとされている。

計算の結果、高温、高圧を経験する物質は衝突点の近傍数十kmに限られることがわかった。粒子の鉱物学的分析からは衝撃の痕跡が見出されなかったことから、リュウグウのもとになった岩体がリュウグウ母天体においては衝突点から遠方にあったことが示されたとする。

また、衝突天体の大きさはシミュレーションサブチームに所属するJAXA 宇宙科学研究所の兵頭龍樹 国際トップヤングフェロー、玄田教授による別の数値衝突計算によって決定された。衝突速度は、小惑星帯の衝突における典型的な速度の秒速5kmに設定されている。詳細な鉱物学的観察結果によれば、リュウグウ粒子は100℃以上の温度、1万気圧以上の圧力には晒されていなかったという。この観察事実と計算結果から、リュウグウのもとになった岩体は100℃、1万気圧より外側に位置していた可能性が高いことが示されることとなった。

  • リュウグウ母天体の破壊計算例

    リュウグウ母天体の破壊計算例。計算中に達成された最大温度が左に、最大圧力が右に初期位置に対して表示されている。図中の白黒線は温度、圧力の等値線。図中の格子状の線は衝突天体の半径の間隔で配置されている。観察事実とこの計算結果から、リュウグウのもとになった岩体は100℃、1万気圧より外側に位置していた可能性が高いことが明らかにされた (出所:千葉工大プレスリリースPDF)

なお、試料の実物大レプリカと、今回の試験に使用された治具のレプリカは千葉工大 東京スカイツリータウン キャンパスにて、2022年9月27日より公開中だという(入場料無料)。