高エネルギー加速器研究機構(KEK)、J-PARCセンター、日本原子力研究開発機構(原子力機構)の3者は9月23日、透過性の高い素粒子「ミュオン」を用いた元素分析法を、小惑星リュウグウで採取された試料に対して適用し、非破壊でその元素組成を明らかにすることに成功したことを発表した。

同成果は、KEK 物質構造科学研究所の三宅康博名誉教授、同・梅垣いづみ助教、同・竹下聡史助教、原子力機構の大澤崇人研究主幹、大阪大学の二宮和彦准教授、同・寺田健太郎教授、同・邱奕寰特任研究員、東京大学の高橋忠幸教授、同・長澤俊作大学院生、京都大学の谷口秋洋准教授、国際基督教大学の久保謙哉教授、宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所の渡辺伸准教授、東北大学の中村智樹教授、同・和田大雅大学院生ら「ミュオン分析チーム」によるもの。詳細は、米科学雑誌「Science」に掲載された。

隕石は、約46億年前に太陽系が誕生した頃の平均的な元素組成の情報を保持していると考えられている。しかし、大気圏に突入した瞬間から、地球の物質による“汚染”が始まるため、正確ではない可能性が指摘されていた。また、一般に太陽系の始原物質はサブミリメートルからマイクロメートルの大きさの空間スケールで不均質であり、一度も地球大気に晒されていない、より大きな試料による平均的な化学組成を分析することができれば、不均一性の問題を解決することができるとされており、それにより小惑星全体、さらには太陽系全体の元素組成を明らかにできる可能性があるとする。しかしこのような分析を、非破壊で行うことはこれまで困難だった。

ミュオンはレプトン(軽粒子)の一種で、電子を第1世代とする荷電レプトンの第2世代にあたる。中性レプトンであるニュートリノほどではないが、貫通力が高いため、近年は、ピラミッドなどの巨大遺跡の内部構造や、さらには火山のマグマの状況を調査するなど、天然の“レントゲン”として活用されるようになっている。

今回の研究では、J-PARCの世界最大強度のミュオンビームが利用された。加速器で得られるミュオンを試料に打ち込み、出てくるミュオン特性X線を分析することで、非破壊で構成元素が特定された。ただし今回の分析は、これまでにない課題があったという。