具体的には、現在世界最大の銀河サーベイとして知られる、約75万天体を含むスローン・デジタル・スカイ・サーベイ(SDSS)のクェーサーカタログから、さまざまな条件を課し、12個の理想的なBALクェーサーを選出し、すばる望遠鏡を用いてそれらの詳細な観測が行われたという。
その結果、BALクェーサーの接線方向の吸収は弱く、BALを持たない通常のクェーサー(non-BALクェーサー)周辺の吸収強度の1/4程度未満という結果が得られたという。この結果は、(1)BALクェーサーの接線方向にある銀河間ガスの電離レベルが高い(すなわち大量の紫外線を浴びている)こと、(2)その原因がダストトーラスによる非等方的な紫外線放射で説明できること、の2点を示唆するという。
宇宙に分布する銀河間ガスは、クェーサーや銀河から放出される紫外線によって少しずつ電離されてきた。クェーサーからの紫外線放射が「非等方的」であることは、宇宙の電離の歴史を詳細に探る上で大変重要な情報となると研究チームでは説明するほか、今回の研究は、標準的なクェーサーのモデルにおいて不可欠な構造とされる「ダストトーラス」の存在を間接的に確認した点も、クェーサーの内部構造を探る上で重要な成果としている。
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ダストフローと電離したガス(電離レベルは明暗差で表現)も描かれたクェーサーのイメージ。(A)クェーサー自身のスペクトルを用いると、その手前に存在する(視線方向の)ガスの電離レベルを調べられる。(B)背後にある別のクェーサーのスペクトルを用いると、手前のクェーサーの接線(横)方向のガスの電離レベルを調べられる。手前がBALクェーサーなら、接線方向の電離レベルの上昇が期待される (C)信州大学 (出所:信州大プレスリリースPDF)
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クェーサー中心部の想像図。(左)クェーサーの発光領域はダストトーラスで覆われているため、中心部からの紫外線放射は指向性を持つと推測されている。(右)銀河中心の大質量ブラックホールの周囲に明るく輝く降着円盤が存在し、そこからメッシュ構造に沿う向き(降着円盤に近い角度)にアウトフローと呼ばれるガスが放出されると考えられている (C)信州大学/国立天文台(出所:信州大プレスリリースPDF)
なお、今回は12天体という比較的小さいサンプル数に基づいて行われたが、より強固な議論を行うためにはサンプルの増加が不可欠だとしており、すばる望遠鏡において、2024年から運用が始まる新しい観測装置「超広視野多天体分光器(PFS)」を用いれば、暗い天体のスペクトルを一度に大量に取得できるため、今回の研究においても大きな進展が見込めるとしている。