国立天文台(NAOJ)は2月10日、日米欧を中心とした国際共同で運用する大型電波望遠鏡群のアルマ望遠鏡による成果や天文学全体の進展を背景として、2020~2030年代に挑むべき次の科学目標とそのために必要な同望遠鏡の機能強化計画「アルマ2」の科学目標とそれを実現するための強化目標を発表した。

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    アルマ望遠鏡の望遠鏡群の空撮画像。画面中央下側のやや右寄りの位置に集中している小型アンテナ群が、日本が開発したモリタアレイ(アタカマ・コンパクト・アレイ) (C)ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), A. Marinkovic/X-Cam(出所:アルマ望遠鏡(NAOJ)Webサイト)

アルマ望遠鏡は国際共同運用を行っており、機能強化計画には世界の研究者コミュニティが合意済みだ。機能強化計画の策定にあたっては、科学者コミュニティの代表らからなる国際ワーキンググループやアルマ科学諮問委員会、多くの研究者が参加したワークショップなどでの議論を経て、科学目標、開発項目とその優先順位について、合意が得られている。

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    アルマ望遠鏡のパラボラアンテナのアップ (C)ESO/B. Tafreshi(出所:アルマ望遠鏡(NAOJ)Webサイト)

その結果、「アルマ望遠鏡将来開発ロードマップ」として承認されたのが2017年11月のことで、その内容が公表されたのは2018年7月のことである。英語版のみだが、「アルマ望遠鏡将来開発ロードマップ」は誰でもダウンロードが可能だ。正確には、アルマ2計画とは、66台ある電波望遠鏡のうちの国立天文台が運用する16台と相関器(スーパーコンピュータ)などの関連施設に関しての日本担当施設の強化計画のことだが、日本独自で行うわけではなく、全体のロードマップに完全に整合する計画として実施される予定である。

アルマ2計画では、以下の3つの科学目標が掲げられている。

  1. 地球型惑星形成領域における惑星系形成過程の理解
  2. 惑星系誕生過程での生命素材物質の理解の飛躍的前進
  3. 宇宙における元素合成の開始地点の探究

「地球型惑星形成領域における惑星系形成過程の理解」としてアルマ2計画では、解像度を向上させることにより、より遠方の原始惑星系円盤を詳細に観測し、地球軌道サイズが分解できる天体数を約100倍に増加させるとしている。

アルマ望遠鏡はこれまで数多くの原始惑星系円盤を高解像度で撮影し、その構造の普遍性と多様性を明らかにしてきた。また、最も地球近傍にある原始惑星系円盤を持つ星であるうみへび座TW星の円盤において、地球軌道サイズまで描き出すことに成功している。

こうしたことから、多数の原始惑星系円盤で、地球型惑星形成領域を含む円盤の全域にわたって、惑星材料である塵の成長場所や円盤構造を作り出す惑星の重さと存在場所を突き止め、惑星系の形成過程を明らかにすることを目指すとしている。

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    アルマ望遠鏡によって観測された若い星うみへび座TW星の周囲の原始惑星系円盤。中央の拡大図では、地球軌道スケールの隙間。うみへび座TW星は、原始惑星系円盤を持つ星としては地球に最も近い175光年の距離にある。アルマ2計画によって解像度を向上させることで、多くの原始惑星系円盤で地球軌道スケールの構造を描き出すことが目指されている (C)S. Andrews (Harvard-Smithsonian CfA), ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)(出所:アルマ望遠鏡(NAOJ)Webサイト)

また、「惑星系誕生過程での生命素材物質の理解の飛躍的前進」については、アルマ望遠鏡は、原始星の周辺や原始惑星系円盤において、メタノールをはじめとする有機分子の検出に成功していることを踏まえ、アルマ2計画では、解像度と感度を向上させることで、原始惑星系円盤内での有機分子の検出にとどまらず、生命素材物質の分布と進化を明らかにすることを目指すとしているほか、円盤内での重水素存在比の空間分布を明らかにし、水の起源に迫るという。はやぶさ2などの探査機で行う太陽系内始原天体での水や有機分子の探査、可視赤外線観測による太陽系外惑星大気での生命の兆候探査と組み合わせ、アルマ2は地球外生命探査という人類の究極的な課題に挑む上での基本的知見を与えることを大きな目標としている。

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    原始惑星系円盤の想像図。中心で輝いているのが誕生したばかりの原始星で、手前に見えるのが原始惑星 (C)国立天文台/アルマ望遠鏡(出所:アルマ望遠鏡(NAOJ)Webサイト)

3つ面の「宇宙における元素合成の開始地点の探究」については、アルマ望遠鏡が宇宙年齢約5億年(今から約133億年前)の時代に酸素を検出したことで、さらにその2億年前に最初の星が誕生したことが示唆されており、宇宙初期の新しい探針として酸素輝線が有望であること、宇宙年齢3億年(赤方偏移z=15)が銀河形成史において重要な時期であることを示す結果とされている。

アルマ2では、感度向上と観測周波数帯域の拡大によって遠方銀河の検出効率を1桁以上向上させ、この時代の銀河の直接検出を目指すとしている。具体的には、宇宙誕生後約3億年で発生したとされるファーストスター(第一世代星)の超新星爆発で放出された酸素を直接捉え、最初の星形成の時期を精度よく求めることで、宇宙における元素合成の開始地点を特定することが目標とされている。

これらの科学目標を実現するため、アルマ2計画では、アルマ望遠鏡に比べて感度を約2倍、空間解像度を2倍以上、同時観測可能な周波数帯域を2倍以上に拡張するとしている。具体的には、アルマ望遠鏡のアンテナや施設を活用し、アンテナに搭載されている受信機とデータを処理する相関器の高機能化や、データ処理技術の向上などによって、これらの機能強化を実現するという。

そのための研究開発は順調に進んでおり、NAOJ 先端技術センターではアルマ2計画に必要な高感度・広帯域受信機の実証実験に2021年7月に成功済みなほか、高解像度化についても、試験観測では目標値に迫る解像度が実験的に達成済みとしている。

なお、今回のアルマ2計画は、天文学のみならず広く学術コミュニティから強い支持を受けているという。まず、日本学術会議の提言「第24期学術の大型研究計画に関するマスタープラン(マスタープラン2020)」において「重点大型研究計画」に選定されているほか、文部科学省「学術研究の大型プロジェクトの推進に関する基本構想ロードマップの策定 -ロードマップ2020-」にも掲載されているとする。