東京大学(東大)は2月8日、ダイアモンドの双子の弟「ポルクス」を化学合成により合成することに成功したことを発表した。

同成果は、東大大学院 理学系研究科の福永隼也大学院生、同・加藤昂英大学院生、東大大学院 理学系研究科 化学専攻の池本晃喜講師、同・磯部寛之教授らの研究チームによるもの。詳細は、米科学雑誌「米科学アカデミー紀要(PNAS)」に掲載された。

ダイアモンドの構造は数学的には、三次元空間を「完全対称性」と「強等方性」を有するように炭素原子を充填した物質であることが提唱されており、そうした数学的アプローチから、その2つの要素を有する炭素性物質が、ダイアモンド以外に、もう1つ存在する可能性が指摘されていた。その「ダイアモンドの双子の兄弟」とも言われる物質の持つ、独特のネットワーク構造の歴史は古く、1932年に最初の提唱がなされて以来、たびたび理論研究の対象となり、さまざまな名称が与えられてきたという。このネットワークが広く興味を集めてきた理由の1つは、ダイアモンドにはない特異な「キラリティ」が存在することにあるという。

しかし、これまでダイアモンドの双子の兄弟は、理論上・想像上の物質であり、その特異なネットワーク構造が、手に取れる実在物質として存在したことはなかった。そこで研究チームは今回、ダイアモンドの双子の兄弟の最小かご単位の化学合成に挑み、見事に成功させたという。

ダイアモンドの最小かご単位は、「アダマンタン」と呼ばれる。それに対し、今回のダイアモンドの双子の兄弟に関しては、ギリシャ神話のジェミニの双子の弟にちなみ、無限長の炭素ネットワークが「ポルクス」、最小かご単位が「ポルクセン」と命名された。

  • ポルクス

    ポルクスとポルクセン(橙色の最小かご単位)。橙色で示されたポルクセンが化学合成された (出所:東大Webサイト)

ポルクセンは、ポルクスの対称性を保った最小かご単位であり、今回の研究では、かご構造の14の頂点にベンゼン環を配置する新設計が着想されている。もともとのポルクスはsp2-混成型の炭素を平面三角形の基本構造としたネットワークとして提唱されたものだが、これをベンゼン環で置き換えようという着想だという。研究チームではこの着想に基づき、14のベンゼン環を頂点とし、15の炭素・炭素結合の辺で結び、ポルクセンの化学合成に成功したとする。

  • ポルクス

    化学合成されたポルクセンの結晶構造を横から見た図 (出所:東大Webサイト)

さらに、今回の研究では、ポルクス・ポルクセンの「キラリティ」の秘密をひも解くことに成功したという。

具体的には、ポルクスのネットワークには「右手・左手」のように鏡に映した関係となる対掌性・キラリティが存在することが提唱されていたことから、研究チームは今回、ポルクセンの「キラリティがないもの」と「キラリティがあるもの」とを別々に合成し、その上で理論・数理解析を実施。その結果、ポルクス・ポルクセンの構造には、複雑な立体異性が存在しており、可能となる最小かご単位の構造は、約5600種にものぼることが判明。そしてキラリティを固定化する手法を工夫し、鏡像関係にあるキラルな2種を化学合成、それぞれキラル物質として単離することに成功したとする。

  • ポルクス

    化学合成されたポルクセンの結晶構造を上から見た図 (出所:東大Webサイト)

今回のポルクスとポルクセンの合成成功について研究チームでは、今後のナノカーボン材料開発の発展に寄与することが期待されるとする。特に、複雑な立体異性やキラリティが存在することが実証されたことで、キラル材料として注目が高まるものと期待されるとしている。