大阪府立大学は12月17日、らせん結晶構造を持つ磁石のひねりの数を制御・検出することに成功したと発表した。

同成果は、同大学 工学研究科 戸川欣彦 准教授ら、広島大学 井上克也 教授、高阪勇輔 特任助教、秋光純 特任教授、放送大学 岸根順一郎 教授らの研究グループ、および英国グラスゴー大学 スティーブン・マクヴィティ 上級講師、ロバート・スタンプス 教授および、ロシアウラル連邦大学 アレキサンダー・オプティニコフ 准教授らとの共同研究によるもので、12月17日付けの米科学誌「Physical Review B(Rapid Communication)」オンライン速報版に掲載された。

現在の情報処理に使われている電子デバイスでは、磁気メモリーや磁気センサーなどの磁石が使われている。磁石を用いた電子デバイスはデバイス内にある2つの磁石の向きを0と1の2値化された電気信号として情報処理を行う。

同研究グループは、物質のキラリティ(対掌性)に着目し、キラルな結晶構造を持つ磁石単結晶の研究を進めており、2012年に片巻きらせん状に配列した磁気構造で、その周期が磁場に応じて変わり試料全体に渡って一様に現れる状態「キラル磁気ソリトン格子」を見出している。今回の研究では、キラル磁気ソリトン格子が示すらせん構造のひねりの数に着目し、キラル磁石の中に多数の磁気情報があるとみなすことができると考えた。

この仮説を検証するために、キラルな磁石であるCrNb3S6単結晶を用いたマイクロメーター磁気電子デバイスを作製し、電気抵抗を計測し、その様子を電気的に検出した。さらに、透過型電子顕微鏡を用いた高空間分解能観察を行いひねりの数が変化する様子を直接数え上げた。

この結果、微小な磁気電子デバイスには数十から数百もの磁気状態が形成されており、その磁気状態は磁場を用いてひとつずつ多段階に変えることができることを発見。 さらに、それらの多段階の磁気状態を多値的かつ離散的な電気信号の変化として検出できることを明らかにしたという。

したがってキラル磁石単結晶を用いた磁気電子デバイスでは多値化された電気信号を扱うことができ、原理的には多値的なデバイス動作を可能にし、巨大な情報処理能力を持つ磁気メモリーや磁気センサーなどへの応用が期待される。今後は、動作条件やデバイス形状の最適化などその潜在能力を検証していくとともに、市場ニーズを踏まえその応用分野を開拓していくことが課題であるとしている。同研究グループは、キラル磁石単結晶に関する基盤学術を確立するため、実験研究と理論研究を両輪として研究開発を進めていく考えだ。

キラルな磁石CrNb3S6の結晶構造とキラル磁気ソリトン格子。CrNb3S6単結晶では周期的ならせん磁気構造である「キラル磁気ソリトン格子」が結晶のc軸方向に沿って現れる。その周期Lは、磁場を加えると、磁場を加えないゼロ磁場状態より徐々に大きくなる