原子核が自転する性質「核スピン」を利用し、熱で発電できることを発見した、と東京大学などの日米研究グループが発表した。電子のスピンでは知られていた現象だが、核スピンは絶対零度に近い超低温で起こるのが特徴という。物性の新たな地平を切り開くと同時に将来、エネルギー分野で利用する可能性もあるという。

金属や半導体に熱を与えると温度差ができて電子が流れ、電気が起こる。逆に電気から熱を生じることもできる。こうした現象は「熱電変換」と総称され、排熱から電気を起こせばエネルギーとして利用できるなどと期待されている。

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    電子スピンのスピン流の概念図(東京大学提供)

スピンは、電子や原子核が自転する性質。磁石の性質は電子のスピンに由来している。電子の流れが電流であるように、スピンにも同様に「スピン流」がある。スピンの持つ「揺らぎ」が隣り合うスピンへと次々に伝わっていき、スピン流が起こる。

電子のスピン流からも、熱電変換により電気が起こる。磁場で制御しやすいなどの利点があり、研究や応用が進んでいる。ただ高温に限られ、温度が下がると効果が激減して消えてしまう。

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    核スピンによって電気(電圧)が起こった実験の概念図(東京大学提供)

こうした中で研究グループは、これまで注目されなかった核スピンで熱電変換が起こるか、確かめる実験を行った。炭酸マンガン(MnCO3)に白金(Pt)の膜を施した試料に熱を与えた。その結果、マンガンの核スピンの揺らぎにより、炭酸マンガンと白金の境界にスピン流が生じ、電気を検出することに成功した。電気はマイナス253度付近以下で発生。絶対零度(マイナス273.15度)に近いマイナス273.05度まで増大した。しかも14テスラという強磁場でも十分に生じた。

物体の温度差で電気が起こる「ゼーベック効果」が発見された1821年からから200年の節目で、この「核スピンゼーベック効果」を発見した。核スピンは電子スピンに比べ揺らぎのエネルギーが圧倒的に小さく、絶対零度近くまで揺らぎ続ける。この性質が熱電変換に生きた形だ。

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    実験結果。左グラフは温度を下げると絶対零度近くまで電気が増大したこと、右は強磁場でも発電したことを示す(東京大学提供)

研究グループの東京大学大学院工学系研究科の吉川(きっかわ)貴史助教(スピントロニクス)は「核スピンと熱電変換という2つの研究領域を結びつけ『核スピン熱電科学』の端緒を開いた。こんなことができるとは誰も思っていなかったのでは。核スピンは核磁気共鳴(NMR)や核磁気共鳴画像(MRI)技術で分析ツールとして利用されてきたほか、量子コンピューター技術で注目されている。用途は限定的にみられてきたが、今回の成果により、低温域で熱利用に生かすという視座を得た」と述べている。

研究グループは東京大学、東北大学、岩手大学、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校などで構成。成果は英科学誌「ネイチャーコミュニケーションズ」に7月16日に掲載され、東京大学などが同26日に発表した。研究は科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業、日本学術振興会科学研究費補助金などの支援を受けた。

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