未来館のアクセシビリティ対応アプリの紹介、第2弾です!

未来館では2025年4月に3つの公式アプリをリリースしました(※1)。そのうちの「未来館アシストアプリ」と「未来館アシストアプリプラス」は、主に視覚障害のある方に未来館の展示を楽しんでいただくために開発されたものです。「未来館アシストアプリ」については、昨年7月にブログで紹介しています(※2)。今回は第2弾として「未来館アシストアプリプラス」(以下アシストアプリプラス)について紹介します!

未来館アプリ アイコン

映像展示だけど耳で楽しむことだってできます

未来館には、音声解説がなく、映像だけでその展示のコンセプトを表現している動画(映像展示)がいくつかあります。5階 「プラネタリークライシス-これからもこの地球でくらすために」のZONE3「くらしのしくみが見える窓」や、「未読の宇宙」でメインエリアの上をぐるりと囲んでいる「マルチメッセンジャー・ビジョン」などです。音声による解説がないことで、それぞれの展示内容について自分なりに考えたり、思いを馳せたりできます。

ただ、このような音声解説なしの映像展示は視覚に障害がある方が体験できないという難点があります。そこで、映像展示を耳でも体験していただくために開発されたアプリが「アシストアプリプラス」です! このアプリは、5階「プラネタリークライシス」内の「食卓の向こう側」や3階「老いパーク」内の「スーパーへGO!」という体験型展示にも対応しています。

 今回は私が実際にこのアプリを使って体験した内容をレポートしたいと思います。

 アプリの立ち上げ方と使い方は以下の通り。

アプリの使い方

いざ体験! まずは5階から

インストールも終わったので、まずは5階の「プラネタリークライシス」でアプリ体験をしてみます。展示エリアの手前でアシストアプリプラスを立ち上げ、その状態でZONE3の展示「くらしのしくみが見える窓」に向かいます。これは、私たちの日々のくらしが地球の環境に与える影響を5つのストーリーとして映す映像展示で、効果音だけのアニメーション映像が繰り返し流れています。

映像に近づいたところで、さっそくアプリが反応してスマホから解説の声が聞こえてきました。

くらしのしくみが見える窓 ~おお、音声での解説が聞こえてくる!~

いつアプリを立ち上げても、ちゃんと目の前に流れている映像に合わせた解説が聞こえます。これには面白い技術が使われているのですが、それは後半で説明しますね。

聞こえてくる解説内容はわかりやすく、映像を見なくてもしっかりとストーリーの情景が目に浮かびます。

つぎにお隣の「食卓の向こう側」に向かいます。

この展示では、いつも私たちが囲んでいる食卓の風景が再現されています。食卓での会話を聞きながら、ふだん当たり前に食べているものや使っているものが、地球環境とどうかかわっているかを知ることができます。アプリをいったん検索モードに戻してから(←ここが重要)、テーブルの前に立つと、スマホから声が聞こえてきました。ここでは、テーブル上部にある電気スタンドの傘のようなスピーカーの下に入ると、アプリが反応するしくみです。

食卓の向こう側

テーブルの上には3つのボタンが並んでおり、そのボタンの選択肢がテーブル上に表示されています。このアプリは、テーブル上の選択肢を音声で読み上げてくれたり、ボタンの位置を教えてくれるため、視覚障害のある方にも動作を伴う展示を体験していただけます。

アプリからの情報をもとに、3つある食卓のシーンの選択肢から1つを選び、それに対応するボタンを押すと、選んだ食卓のシーンの会話が頭上のスピーカーから聞こえてきました。アプリのサポートにより、見えなくても次の操作がどんどん進められます。いつもの食事にはいろいろな背景があることを知ることができ、環境問題について改めて考えることができました。

一通り体験したあと、食卓を離れて、次の展示「未読の宇宙」に向かいます。

「未読の宇宙」の「メインエリア」に着きました。「未読の宇宙」では、未知の現象に出会ったときの言葉にしつくせない心の動き(=“エモさ”)を感じることができます。見上げると、宇宙に関する観測データをビジュアル化した美しい映像が、展示の上をぐるりと囲む360度スクリーン(マルチメッセンジャー・ビジョン)に映し出されています。「これは本当にエモい!」と感動しながら、コルクのシートに座り一息ついたところで、アプリを検索モードにします。するとすぐにスマホから、マルチメッセンジャー・ビジョンで流れている映像の解説が聞こえてきました。ここでも、いつアプリを開始してもちゃんとその時流れている映像の説明をしてくれます。説明している男性の声がまた静かでおもむきがあり、美しい映像にマッチしていて、ゆったりとした気持ちで解説に聞き入ってしまいました。

マルチメッセンジャー・ビジョン ~ う~ん、エモい。 ~

つぎの体験は3階で 「スーパーへ GO!」

つぎに3階 「老いパーク」の「スーパーへGO!」を体験しに行きます。

ここは、歳をとると体が思うように動かなくなり、120m先のスーパーへ行くのもたいへんになることを体験する展示です。老化による筋力の低下を体現するため足におもりをつけて、スクリーンに映る街中の人々や車の動きを見ながらスーパーまで歩く体験をシミュレーションします。

この展示は安全のため買い物かごを模したバーを両手で持つ必要があるので、スマホは横のイスに置きます。さて準備が整いました。目の前のスクリーンはスタート地点を映しています。ここでアプリを立ち上げて「自動ガイド」ボタンを押し、いざスーパーへGO!

スーパーへGO! ~ アシストアプリプラスを使って体験してみました ~

今回は目を閉じて挑戦してみました。スクリーン映像からスタートの合図と使い方の説明が流れるので、それに合わせて歩き始めます。この展示はもともとスクリーンから街の映像とともに車の音や人の話し声が聞こえるのですが、それに加えてアプリからは「あと〇〇m」とか「目の前に人がいます」といった補足の説明が流れてきます。目を閉じていると、人とぶつかる音や車が近づく音などがよりリアルに感じられます。たった120mほどの距離がこんなに長いなんて思ったことはありませんでした。

そしてやっとスーパーまでたどり着くことができました。あ~疲れた。でも、アプリのおかげで、目を閉じていても楽しく老いを体験できました。視覚障害のある方々にもぜひこのアプリを使って「スーパーへGO!」にチャレンジしていただきたいと思います。

アシストアプリプラスで使われている技術について、語ります

実は私、未来館でデジタル・技術を担当している科学コミュニケーターなので、アプリの技術的なお話もさせてください。

今回使用しているのは、エヴィクサー社のAnother Track(R)(※3)という音響通信技術です。以下の2つの要素技術があります。

Audio Watermark(音響透かし・音声透かし)

Audio Fingerprint(音響フィンガープリント・音声フィンガープリント)

あまり聞いたことのない言葉ですよね。 では、一つ一つ説明していきましょう。

 Audio Watermark(音響透かし・音声透かし)

Watermark(ウォーターマーク)とは、日本語で ”透かし” の意味で、日本のお札にも使われているように、ふだんは見えないけれど、光にかざすと絵が浮かび上がってくるようなもののことです。

 皆さんは、人間はどれくらいの音域を聞くことができるのかご存じですか? 答えは、だいたい20Hz~20kHzくらいです。アシストアプリプラスに対応している映像展示には、18kHz~20kHzという人間が聞こえる限界くらいの高い音が周期的に入っています。この技術では、この高い音を “透かし” として使用しています。

アプリは、映像コンテンツが出す “透かし” の音声をマイクを通して受け取ったら、それをきっかけに解説を始めます。実はこの解説音声はアプリ側が持っているのですが、コンテンツが出す“透かし”の音声には映像の各場面の時間情報が含まれているため、アプリは、今流れている映像がどの場面なのかを知ることができ、その場面に合った解説を流すことができるのです。

アシストアプリ対応の映像展示で使われているAudio Watermarkの周波数(未来館で測定)

18kHz~20kHzくらいの音は、蚊の羽音のように高い音、ということで「モスキート音」と言われています。もしかしたら、アシストアプリプラスが使われているいくつかの展示の近くだと、この音が聞こえる人もいるかもしれませんね。

ただ、だんだん歳を重ねていくと、聞こえる範囲が狭くなってしまいます(詳しくは「老いパーク」の展示を見てください)。一般的には30代で、この高さの音はもう聞こえなくなるようです。今の私にはまったく聞こえません……。

 Audio Fingerprint(音響フィンガープリント・音声フィンガープリント)

こちらは、映像展示のコンテンツで流れる音の中で、ある特徴を持つ音をきっかけにして音声ガイドを開始する、というものです。

名前にもある 「フィンガープリント」、これは何のことがわかりますか? 実は日本語で “指紋” という意味なんです。指紋は誰一人として同じではないため、人を判別することに使われたりしますよね。この技術では、映像コンテンツの中の特定の音が、指紋のように他のどの音とも同じではないことを利用して、アプリがその特定の音を受け取ったらガイドを流すというものです。ちなみに、このブログのタイトルにある “音紋” とは、もともと船や潜水艦のスクリューの音から来ていることばです。スクリュー音は船ごとに違うため、それぞれの船を判別するのに使われているそうです。

Audio Fingerprintは老いパークの「スーパーへGO!」で使われています。歩く速度によって映像の進み方が変わっても映像に合った解説が聞こえるのは、アプリが特定の音をきっかけにしてガイドを始めているからなんですね。 

このように、アシストアプリプラスでは、この2つの要素技術を展示の内容に合わせて使い分けています。

 

もう一つの強み

このAnother Track(R)には、もう一つ強みがあります。それは、「解説のきっかけとなるものが “音” である」ということです。スマホのマイクが、展示コンテンツから出される「ある決められた音」を受けとることで、機能が発動します。

アプリをインストールした後は、Wi-Fiもインターネットも要りません。マイクさえONになっていれば、あとはアプリを立ち上げるだけです。電波環境やデータ通信料を気にせず、映像展示と同期した解説が聞けるという優れものなのです。 

ここまでアシストアプリプラスの技術についてお話しましたが、いかがでしたか? アクセシビリティの観点でも、未来館らしい面白い技術を使っていることを知っていただけたでしょうか? 障害のあるなしにかかわらず、ぜひ皆様にこのアシストアプリプラスを使っていただきたいと思います。実際に使ってみてわからないことがあれば、展示フロアにいる科学コミュニケーターにお尋ねください。

また、2026年4月24日に未来館7階に新設された「シアタールーム」と「イノベーションホール」でもこの技術が使われています。アシストアプリプラスを使用した解説をお聞きになりたい場合は、未来館スタッフにお声がけください。

「耳」で楽しむ未来館の映像展示、ぜひ体験してみてくださいね。

<注釈>

1  日本科学未来館公式アプリ

   ・アプリ入手URL

    https://www.miraikan.jst.go.jp/resources/app.html

  ・アシストアプリプラス対象展示

    ・公式Webサイトをご確認ください

  ・アシストアプリプラス対応言語

    ・日本語 (シアタールーム(7階)の映像解説は英語も対応)

  ※アシストアプリプラスをご利用の際はマイクをONにしてください

 

2    科学コミュニケーターブログ

  「~未来館のアクセシビリティ対応アプリ紹介 その1~ 

   QRコード? レトロゲームの敵キャラ? いやARマーカーです!」

   https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/20250730qr-ar.html

 

3  Another Track(R)はエヴィクサー社の登録商標です。

   https://www.evixar.com/technology/



Author
執筆: Y.Egawa(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
【担当業務】
デジタル・技術の科学コミュニケーターとして、館内のアクセシビリティや無線機器などに関する新しい技術企画に挑戦中。技術的観点から未来館とお客様をつなぐ役割を担っていきたい。

【プロフィ-ル】
子どものころから工具を使ってモノを作ったり直したりするのが好きで、進むべくして工学系に進んだ理系女子です。専門分野は無線通信ですが、最新の科学に興味津々なので、日本科学未来館で多くの知識を得、それを発信できることがとても楽しいです。

【分野・キーワード】
無線通信、工学系技術