シリアンハムスターなどの冬眠する小型哺乳類が低体温に耐えることができるのは、肝臓にビタミンEを高濃度で保持しているためだった-。北海道大学などの研究グループがこのような興味深い研究成果を発表した。臓器の低温保存法や低体温に伴う障害予防法の開発にもつながる可能性があるという。

人間をはじめとする多くの哺乳類は体内で炭水化物や脂肪を燃焼させ、寒冷環境下でも体温を37度付近に維持して活動する。エネルギー不足などで体温保持ができずに低体温になった状態が長時間続くと、さまざまな臓器機能障害や細胞死を生じて最終的には死に至る。

これに対し、シリアンハムスターやシマリス、ジリス、ヤマネなど、冬眠する小型哺乳類は冬の数カ月間、体温が10度以下の低温状態で何日間も過ごす。また冬眠から目覚める時は体温を37度近くまで急激に戻すことが知られていた。しかし、冬眠する哺乳類がなぜ低温状態や急激な体温上昇に耐えることができるのかについて、詳しいことは分かっていなかった。

北海道大学低温科学研究所の山口良文教授や東京大学大学院薬学系研究科博士後期課程(当時)の姉川大輔さん、同研究科の三浦正幸教授らの研究グループは、同じ小型哺乳類でも冬眠するシリアンハムスターと冬眠しないマウスとの間で、細胞レベルの低温耐性にどのような違いがあるかを調べた。

実験の結果、マウスの肝細胞は低体温で培養すると1~2日で死滅したが、シリアンハムスターの肝細胞は低温下でも5日以上生存し、長い期間の低体温状態の後に37度に戻しても生存することが分かった。そしてシリアンハムスターの肝細胞の低温耐性がえさの種類に関係していることも判明した。えさの種類を変えると、低温耐性がなくなったり再び現れたりしたという。

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    低温下ではマウスの肝細胞(左)は細胞死(赤く着色)したが、シリアンハムスターの肝細胞(右)は生存した(北海道大学などの研究グループ提供)

研究グループは次に、えさのどのような成分がシリアンハムスターの低温耐性に関係があるかを究明する実験と解析を行った。その結果、えさに含まれる脂溶性のビタミンEの一種であるα-トコフェロール(αT)の量が起因していることを突き止めた。

αTは細胞膜や細胞内に存在する不飽和脂肪酸の脂質過酸化反応を防ぐ作用があり、細胞死を阻害することが知られている。αTが少ないえさで飼育されたハムスターの肝細胞は細胞死したが、αT 量を多くしたえさで飼育された場合の肝細胞は低温耐性が保持されることも確認したという。

これらの結果から研究グループは、シリアンハムスターが肝細胞に高濃度のビタミンE(αT)を保持することにより、冬眠期間中でも低温に耐えることができると結論付けた。冬眠する小型哺乳類が夏から秋にかけ、ビタミンEを多く含む果実や木の実を大量に摂取したり、巣穴に取り込んだりする習慣を理解できるとしている。

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    シリアンハムスターの肝臓はえさ由来のビタミンEを高濃度で含有することで細胞死などを阻止する(北海道大学などの研究グループ提供)

研究グループによると、今後シリアンハムスターが肝臓や血中にαTを高濃度で保持する仕組みを詳しく解明する予定で、移植医療の際に生じる低温による臓器傷害の軽減などに有用な手段が見つかる可能性があるという。研究成果は6月25日付の生物専門誌「コミュケーション・バイオロジー」電子版に掲載された。

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