東北大学と北海道大学(北大)は4月30日、隕石に含まれる主要な有機物である不溶性有機物とアミノ酸や糖などの低分子有機物との間に存在する大きな炭素同位体組成の差が、隕石有機物の生成反応の1つとして提案されてきたホルモース型反応によって再現できることを明らかにしたと発表した。

同成果は、東北大 大学院理学研究科の古川善博准教授、同・岩佐義成大学院生(当時)、北大 低温科学研究所の力石嘉人教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米科学振興協会発行の国際学術誌「Science Advances」に掲載された。

隕石は、地球に落ちてくる前は小惑星などの微小天体であったとされ、その小惑星は彗星と共に、約46億年前の太陽系の形成時に誕生して以降、当時の状況をそのまま残していると考えられることから、天然のタイムカプセルなどと呼ばれ、太陽系の歴史を調べるのに貴重なデータを与えてくれる。

その小惑星にもさまざまなタイプがあるが、岩石質のものが多くを占める。その岩石質のものも多数に分類され、その一部は、さまざまな有機化合物の形で炭素を含む「炭素質コンドライト」を多く含むC型小惑星が元であるとされている。こうしたC型小惑星は、太陽系形成時に生成されたアミノ酸や糖など、生命の材料となり得る有機物を含んでおり、C型小惑星を母天体とした炭素質コンドライト隕石にもそうした有機物が含まれている。

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    (左)アミノ酸、糖、不溶性有機物を含む炭素質コンドライト隕石。(C)Yoshihiro Furukawa、(右)はやぶさ2が探査を行い、サンプルリターンを成功させたC型小惑星リュウグウ (C)JAXA、東京大、高知大、立教大、名古屋大、千葉工大、明治大、会津大、産総研 (出所:共同プレスリリースPDF)

地球の生命がどのようにして誕生したのかは、現時点では明確な答えは得られていないが、有機物が隕石によって宇宙から地球にもたらされ、それらが海に溶け込み、やがて生命へとなっていたったとする説が有力な1つだ。それを確かめるため、「はやぶさ2」はC型小惑星であるリュウグウを探査し、そして難度の高いサンプルリターンを成功させたのである。

絶対零度に近いような極低温で、なおかつ高真空である宇宙空間では、岩石や金属のような無機物でないと存在できないようなイメージがあるが、実は星形成領域のような、星間ガスが濃く集まった領域などではさまざまな有機物が確認されている。ただし隕石に含まれている有機物が、どのような材料からどのような反応で生成したのかは、多くの可能性があるため、これまで詳細なところは明らかになっていなかった。

このような背景を受けて研究チームは今回、炭素質コンドライト隕石に含まれるアミノ酸や糖などの低分子有機物が、炭素の安定同位体「13C」を多く含み、逆に隕石中の主要な有機物である不溶性有機物が、炭素の安定同位体「12C」を多く含むという特徴に着目。

この同位体組成の特徴が、糖を化学的に合成する反応として知られる「ホルモース型反応」に伴う、炭素同位体の挙動で説明できるという仮説を立て、それを検証するための模擬実験を実施することにしたという。

生成されたアミノ酸と不溶性有機物の炭素同位体組成の分析が行われた結果、アミノ酸は13Cを多く含み、不溶性有機物は12Cを多く含むことが判明。その差は隕石有機物の特徴に合致することが明らかとなったほか、生成されたカルボン酸とアミンの相対濃度が、隕石中のカルボン酸とアミンの総体濃度と合致することも明らかとなったという。

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    隕石有機物と模擬実験の比較 (出所:共同プレスリリースPDF)

これまで、隕石アミノ酸の炭素同位体組成の特徴は、アミノ酸を作った材料分子が10K(-263℃)以下の極低温環境で生成することによるものと考えられてきたという。しかし実際にそのような環境において、隕石有機物の炭素同位体組成に相当する特徴を持つアミノ酸や不溶性有機物が生成されたという実験結果は得られていないともいう。つまり今回の研究成果は、隕石アミノ酸と不溶性有機物の炭素同位体組成の特徴が極低温環境で生成する材料に限らず、はるかに広範囲に分布する炭素同位体組成に差のない材料から作り出されていたことを示すものだという。

また、先行研究によってホルモース型反応の生成物組成が隕石中に含まれる不溶性有機物、アミノ酸、糖、含窒素ヘテロ環化合物などのさまざまな有機物組成と類似することが明らかになっているが、今回の研究で、さらにカルボン酸とアミンの含有量の類似性、主要な有機物である不溶性有機物とアミノ酸の炭素同位体組成の一致が明らかにされたことから、ホルモース型反応が小惑星有機物を生成した主要な反応の1つであったことを示しているともしている。

なお、ホルモース型反応は、小惑星内部の水熱反応だけでなく、小惑星集積以前の微粒子表面での光化学反応でも起こった可能性があるとしているほか、低温環境でも、炭素同位体組成に差のない材料から13Cを多く含むアミノ酸や糖などの低分子有機物が生成した可能性もあるとしている。そのため、将来的に計画が検討されている彗星からのサンプルリターンが実現すれば、その生成環境の特定が期待されるとしている。