国立科学博物館、国立極地研究所(極地研)、九州大学の3者は11月13日、2020年7月2日に千葉県習志野市と船橋市に落下した隕石の分類が「H5普通コンドライト(球粒隕石)」と確定したことを共同で発表した。また、同隕石は11月1日付けで、国際隕石学会に「習志野隕石(Narashino)」として登録されたことも合わせて発表された。

同成果は、科学博物館 理工学研究部の米田成一理化学グループ長、極地研 地圏研究グループの山口亮准教授(極域科学資源センター 南極隕石ラボラトリー キュレーター兼任)、極地研 地圏研究グループの竹之内惇志JSPS特別研究員、九大大学院 理学研究院 地球惑星科学部門の岡崎隆司准教授らの共同研究チームによるもの。

2020年7月2日2時32分、関東地方上空を大火球が通り、これに伴って、千葉県周辺に隕石が落下した。同日、ひとつ目の破片が同県習志野市のマンションで発見され、千葉県立中央博物館を通じて科学博物館に同定依頼がなされた。

そしてガンマ線測定が行われ、宇宙線生成核種が検出され、落下して間もない隕石であることが確認された。これが「習志野隕石1号」と呼称される隕石だ。

  • 習志野隕石

    習志野隕石1号の大きな破片 (出所:3者共同プレスリリース)

63gと70gのふたつの破片と、その後の調査で発見された小さな破片を合わせると156gが回収された。国内で隕石が発見されたのは、2018年9月26日22時30分頃に愛知県小牧市の民家に落下した「小牧隕石」以来となる。通算、53番目の隕石だ。

その後、7月22日になって、「習志野隕石1号」の落下地点から約1km離れた千葉県船橋市内のアパートで屋根瓦が割れているのが発見され、瓦の破片と一緒にふたつめの隕石片が発見された。これが「習志野隕石2号」である。

  • 習志野隕石

    習志野隕石2号の大きな破片 (出所:3者共同プレスリリース)

こちらは95gと73gのふたつの破片と、そのほかに小さな破片が発見され、合計194gが回収された。これにより、ひとつの隕石がバラバラになって多くの破片を降らせる隕石雨(隕石シャワー)であったことが確認された。

習志野隕石に関する分析は、先に回収された1号については、発見から約2週間後の7月15日に極地研にて実施された。極地研は南極観測を行っている機関だが、実は隕石の所蔵点数に関して世界屈指であることでも知られる。2014年時点で約1万7000個の隕石が所蔵されており、それらの大半は南極で回収された。日本の南極観測隊は、南極で隕石を回収することも正式な任務のひとつとしており(毎回ではない)、中には月からの隕石、火星からの隕石まで所蔵している。

そんな極地研において、1号の大きな破片から分析用試料が約1gずつ切り取られ、そのうちの70gの破片から切り取られた試料からは、隕石薄片と電子顕微鏡用試料が作成された。

  • 習志野隕石

    習志野隕石1号の薄片の偏光顕微鏡写真(極地研にて撮影されたもの) (出所:3者共同プレスリリース)

63gの破片から切り取られた試料は、希ガスや宇宙線生成核種の分析に使用された。

2号については、回収されて同じく約2週間後の8月4日に極地研で分析用試料の作成が行われた。まず73gの破片から約3gの分析用試料が切り取られ、薄片と電子顕微鏡用試料の作成と、希ガスの分析が実施された。

1号と2号の試料による、偏光顕微鏡と電子顕微鏡による隕石組織の観察と鉱物組成の分析結果(かんらん石、輝石)から、習志野隕石は普通球粒隕石(コンドライト)であることが判明。普通コンドライトは化学的グループな分類としてH、L、LLの3種類があるが、詳細な鉱物組成からHグループであることも確認された。

  • 習志野隕石

    習志野隕石のかんらん石の化学組成。かんらん石中の鉄/(鉄+マグネシウム)比(モル%、Fa#)のヒストグラム(国立極地研究所)。1号と2号に差はなく、Hグループの化学組成であることが判明した (出所:3者共同プレスリリース)

また隕石組織の観察により、粗粒の斜長石が含まれていないことから、岩石学的タイプは5であることもわかったという。これらの組み合わせから、「H5コンドライト」と呼ばれている。

H5コンドライトは、普通コンドライトではL6コンドライトに次いで2番目に多いコンドライト内のグループだ。これまで日本に落下した隕石の中で同じグループに属するのは、「木曽隕石」(1866年落下)、「竹内隕石」(1880年落下)、「神大実隕石」(1915年頃落下)、「岡部隕石」(1958年落下)、「田原隕石」(1991年落下)、「つくば隕石」(1995年落下、H6の部分もあり)、「広島隕石」(2003年落下)などがある。

そして習志野隕石の分析において、アルゴンなどの希ガス分析を担当したのが九大だ。アルゴンの分析から、形成年代(K-Ar年代)が45±1.5億年前という結果が得られたという。つまり、習志野隕石が形成された年代は、太陽系が形成された46億年前の直後ということになる。また、1号と2号で希ガスの同位体組成はほぼ同じであることから、同位置起源の隕石であることがここでも確かめられた。

こうした分析結果のもと、共同研究チームでは国際隕石学会に「習志野隕石」として登録申請を実施。隕石の名称は落下地にちなんだものをつけることになっているので、最初の隕石片の発見地が習志野市であること、また船橋市も含めてこの地域の名称として習志野が知られていることが理由とした。その後、国際隕石学会の命名委員会において審査・投票が行われ、10月24日付けで承認となり、同学会の隕石データベースに11月1日付けで登録された。

今回の習志野隕石の一部は、2号が衝突したアパートの瓦の一部などと共に、東京・上野の国立科学博物館において、「科博ニュース展示」として、12月13日(日)まで公開中だ。同時に、千葉市中央区の千葉県立中央博物館においても2021年2月28日まで展示を行っている。太陽系創世の46億年前からやって来たタイムカプセルを直に見てみてはいかがだろうか。