米国航空宇宙局(NASA)は2021年2月23日(日本時間)、19日に火星探査車「パーサヴィアランス」が火星に着陸した際に"自撮り"した動画を公開した。

着陸の様子を捉えた動画が撮影されたのは初めて。また、火星着陸の直後に撮影した写真や、火星を回る探査機が捉えたパーサヴィアランスの写真なども公開された。

火星に着陸するパーサヴィアランスの“自撮り”

Perseverance Rover’s Descent and Touchdown on Mars (Official NASA Video) (C) NASA/JPL-Caltech

この動画は、パーサヴィアランスが火星に着陸する際に、パーサヴィアランスや降下ステージに搭載したカメラから撮影されたものである。

パーサヴィアランスは火星の大気圏突入後、まず耐熱シールドで熱を受け止めながら降下し、続いてパラシュートを展開して徐々に減速。そして着陸の最終段階では、「降下ステージ」と呼ばれる装置がロケットエンジンを噴射することでホバリングし、そこから紐で吊るされたパーサヴィアランスがゆるやかに地面に降ろされる、「スカイ・クレーン」という着陸方法で火星に舞い降りる。

火星は大気が薄く、地球の100分の1ほどしかない。そのため、地球のようにパラシュートだけでは十分に減速しきれず、重い探査機を降ろそうとすればなおのこと、ロケットの噴射などの手段を駆使しなければならない。それでいて、大気から受ける空力加熱は大きく、少し間違えればたちまち機体は燃え尽きてしまう。その難しさゆえに、火星への着陸は「恐怖の7分間」とも呼ばれる。

動画ではまず、高度約11kmでパラシュートを開くところが映っている。パラシュートの傘の部分には白と赤で模様が描かれているが、これはASCIIコードを使って「Dare Mighty Things」という言葉が表されている。Dare Mighty Thingsは「あえて強大なものに(挑もう)」というような意味で、パーサヴィアランスのチームのモットーであり、またパーサヴィアランスを開発したNASAジェット推進研究所(JPL)のモットーでもあり、ミッション・コントロール室の壁にも掲げてある言葉である。ちなみに、映画「オデッセイ(原題:The Martian)」では、主人公がASCIIコードで地球と連絡を取るシーンがある。

また、パラシュートの外周部分の模様は「34°11’58” N 118°10’31” W」という、JPLの所在地の座標を表している。

動画はその後、パーサヴィアランスの下部に取り付けたカメラから撮影した耐熱シールドの分離の様子が映り、徐々に火星の地表が近づき、そして最後には降下ステージがエンジンを噴射してパーサヴィアランスを降ろす様子や、着陸後に降下ステージが離脱する様子なども映っている。

火星に着陸する一連の動作が、動画で収められたのはこれが初めて。動画のような大容量のデータをリアルタイム送信するだけの帯域はないため、いったんパーサヴィアランスにデータを保存したのち、火星を周回する探査機を中継して送信された。

JPLの所長を務めるマイケル・ワトキンス(Michael Watkins)氏は「火星着陸における『恐怖の7分間』を、私たちはついに最前列で見ることができるようになりました。パラシュートが開く様子や、ロケットの噴射が塵や小石などを吹き飛ばし、そしてタッチダウンする様子などは、まさに圧巻です」と語っている。

また、NASAのトーマス・ザブーケン(Thomas Zurbuchen)科学局長は「これはまるで、生身で火星に着陸するかのような感覚が味わえる動画です。火星を探検したり、そこに行くための宇宙船を造ったり、そして将来なにか大きな目標を達成したいと考えている多くの人々にとって、この映像は大きな意義を持つはずです」と語っている。

火星着陸後、最初に撮影されたカラー画像

  • パーサヴィアランス

    パーサヴィアランスが火星に着陸後、最初に撮影したカラー画像 (C) NASA/JPL-Caltech

この画像は、火星に着陸したパーサヴィアランスが、最初に撮影したカラー画像である。

撮影したのは、探査車の下面に搭載された「ハズカムズ(Hazcams)」と呼ばれる、障害物検知用のカメラである。このカメラは水平、垂直方向に約120°の視野をもつ超広角カメラで、その画像をもとに探査車周辺の様子を確認したり、地図を作成したりし、安全な走行を実現させる。

パーサヴィアランスの自撮りと火星の色を正確に識別する装置

  • パーサヴィアランス

    パーサヴィアランスが2月20日に撮影した画像 (C) NASA/JPL-Caltech

この画像は、パーサヴィアランスに搭載されている、マストに搭載されたカメラ(Mastcam-Z)が、2月20日に撮影した画像である。ちょうど探査機の前方から後方を見ているアングルになる。

手前に写っているカラフルな円形の物体は「キャリブレーション・ターゲット」、またさらにその手前にやや影になっている、L字型の板状のカラフルな物体は「セカンダリー・キャリブレーション・ターゲット」と呼ばれ、ともにカメラで撮影した火星の色を較正するための指標となるもので、明るさの変化や大気中の塵などの状態を確認し、それに応じて写真の色を調整するのに使う。

また、写真の奥に写っているいくつもの穴が空いたような板は、遠くの土壌や岩石を撮影、分析するための「スーパーカム(SuperCam)」というまた別のカメラのキャリブレーション・ターゲットである。

パーサヴィアランスが撮影した全周パノラマ画像

  • パーサヴィアランス

    パーサヴィアランス搭載のカメラで撮影した画像をつなぎあわせたパノラマ画像 (C) NASA/JPL-Caltech

この画像は、パーサヴィアランスに搭載されている2台の航法カメラ(Navcams)が、2月20日に撮影した6枚の画像をつなぎ合わせて作られたパノラマ画像である。

パーサヴィアランスの車体のほか、火星の特徴的な赤茶けた、荒涼とした大地や、大小さまざまな石などが写っている。

火星を周回する探査機が撮影したパーサヴィアランスの着陸

  • パーサヴィアランス

    NASAの探査機「マーズ・リコネサンス・オービター(MRO)」が撮影した火星降下中のパーサヴィアランス (C) NASA/JPL-Caltech/University of Arizona

この画像は、火星を周回しているNASAの探査機「マーズ・リコネサンス・オービター(MRO)」が撮影したもので、パーサヴィアランスがパラシュートを開いて、火星の大気圏を降下している様子が写っている。

画像の中央から右にかけて広がる平たい一帯が「イェゼロ・クレーター」で、いまから約35億年前には湖だったと考えられている。左には、過去に川が作り出した三角州と考えられている地形が見える。

パーサヴィアランスはまさにこの三角州の近くに着陸し、古代の湖の湖底を探査して、生命の痕跡を探すことを目的としている。

探査機が撮影したパーサヴィアランスや耐熱シールドたち

  • パーサヴィアランス

    MROが撮影した火星降下後のパーサヴィアランス、分離したパラシュートとシェル、耐熱シールド (C) NASA/JPL-Caltech/University of Arizona

この画像もMROが撮影したもので、中央下にはパーサヴィアランスが、また左には分離したのち落下したパラシュートとシェル(カバー)が、その右には降下ステージが、そして右端には耐熱シールドが写っている。

参考文献

Perseverance Rover’s Descent and Touchdown on Mars (Official NASA Video) - YouTube
NASA's Mars Perseverance Rover Provides Front-Row Seat to Landing, First Audio Recording of Red Planet - NASA’s Mars Exploration Program
Adam SteltznerさんはTwitterを使っています 「It looks like the internet has cracked the code in something like 6 hours! Oh internet is there anything you can’t do? For those who just want to know: #Mars2020 #CountdownToMars / Twitter