グレイスグループは2月10日、1月18日より開始した選択的卵子凍結サービス「Grace Bank(グレイスバンク)」に関するメディア向け説明会を開催。4月1日から厚生労働省が定めた基準に該当するがん患者の卵子凍結費用10年間分を無償提供することなどを明らかにした。

日本は年間44.8万件の対外受精を行う、世界第一位の不妊治療大国でありながら(出典:日本産婦人科学会2017年)、高齢になってから不妊治療に取り組むケースが多い事や、卵子提供が一般的でないこと、一度に移植する胚の数が限られていることから、体外受精後に誕生する子供の数が少ないという現状があるという(アメリカは対外受精後の出産がおよそ4回に1人、日本およそ8回に1人となっている)。

女性が自分のキャリアパスとライフプランを考えて活用できる卵子凍結サービス

選択的卵子凍結サービスとは、年齢の影響を受けやすい卵子を、女性自身が将来妊娠・出産を希望するタイミングまで凍結保管しておくことを可能とするもの。

女性の妊孕性(妊娠するために必要な能力)とライフプラン、キャリアの両立を考えた際に、社会全体として女性の医学的機能に対する理解の低さや、卵子凍結に関する社会環境が未整備であることが問題であると考え、卵子凍結のインフラ整備を行い、少子化問題の改善や、女性の医学的機能を理解し、向き合う社会にしていきたいという想いから同サービスを開始したという。

具体的なサービス内容としては、利用者に対する提携クリニックの提示と選択したクリニックで採卵した卵子を、同社と業務提携したさい帯血バンクを運営するステムセル研究所の施設の一部を活用し、保管するというものとなっている。

  • GraceBankで利用するステムセル研究所の保管庫

    GraceBankで利用するステムセル研究所の保管庫。温度管理や液体窒素の供給を完全自動化することで液体窒素供給忘れによるヒートショックや、停電などに備えるという(写真提供:グレイスグループ)

気になるコストに関してだが、これまで一般的なサービスとして10年間の卵子凍結で60万円以上の費用がかかっていたものを、保管施設の自動化やタンク内構造の見直しなどを図ることでコストを抑えることに成功、40万円(税別、未受精卵上限15個の場合)での提供を行うとしている。

同社では、選択的卵子凍結とは異なり、病気などが理由で妊孕性の低下や喪失が差し迫っている場合の卵子凍結を「医学的卵子凍結」としているが、こちらの場合でも適用が可能なサービスだとしている。

AYA世代のがん患者の卵子凍結費用を10年間無償化

また、同社はAYA(Adolescent and Young Adult)世代(主に15~39歳までの思春期から若年成人までの世代を指す)でがんと診断され、がん治療に使用される抗がん剤や放射線により妊孕性や卵巣への影響が指摘されている現状を鑑み、2021年4月1日から基準に該当するがん患者の卵子凍結費用10年間分を無償提供することも明らかにした。

対象者は厚生労働省の医学的卵子凍結(未受精卵)助成対象者で、利用希望者はGrace Bankを利用して卵子(未受精卵)を採卵・凍結・保管に対する申し込みを行う際に、「医学的卵子凍結」を選択の上、個別連絡が必要という。

なお、同社は今回のような活動を通じて、自身の意思に反して医学的卵子凍結を諦めざるを得ない疾病患者を無くすことを目指すとしている。

  • メディア向け説明会で司会を務めた宇賀なつみ氏、グレイスグループCEOの花田 秀則氏、同会長の勝見祐幸氏、同エグゼクティブメディカルアドバイザーの杉山力一医師、ステムセル研究所代表取締役社長の清水崇文氏

    メディア向け説明会で司会を務めた宇賀なつみ氏、グレイスグループCEOの花田 秀則氏、同会長の勝見祐幸氏、同エグゼクティブメディカルアドバイザーの杉山力一医師、ステムセル研究所代表取締役社長の清水崇文氏(写真提供:グレイスグループ)