火星で運用中の地下探査機「インサイト」について、米航空宇宙局(NASA)は地下掘削を断念したことを明らかにした。主要観測機器を埋め込むため必要な作業だったが、土壌が予想外に固まりやすく、掘り進められなかったという。

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    インサイトの想像図。右手前が断念した地下の観測機器(NASA提供)

インサイトは火星の内部構造調査にほぼ特化した史上初の探査機。2018年5月に打ち上げられ、11月に火星の赤道付近にあるエリシウム平原に着陸した。科学観測機器として地震計と熱流量計、電波で内部を調べる装置などを搭載。このうち熱流量計はドイツが開発したもので、地下3メートル以深に設置して火星内部から地表へと伝わる熱を捉える計画だった。

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    土壌に打ち込めない熱流量計(下)と、支援を試みるロボットアーム(NASA提供)

ところが、熱流量計を地下に打ち込もうと2019年2月から試みたものの、土壌が予想外に固まりやすい性質を持っており、周囲の土壌との間に隙間ができて打ち込めなかった。ロボットアームの先端で土壌を崩そうとするなど、当初の計画にない工夫を重ねたが効果がなかった。今年1月9日の作業で、熱流量計の先端が2、3センチ土壌に入った状態から500回にわたり打ちつけても事態が好転しなかったのを受け、探査チームは検討の結果、最終的に断念することを決めた。

地下の熱流量を調べれば火星内部から地表への熱の移動の状況が分かり、火星の成り立ちや、地球など他の岩石惑星の理解の手がかりになると期待されていたが、失敗に終わった。決定を受けNASAの幹部は「ここにこそNASAがリスクを取る理由がある。何が役立ち、役立たないかを学ぶ必要があり、その意味でわれわれは成功した。将来の探査に役立つ多くのことを学んだ」と述べた。

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    火星内部の想像図。中心部は液体であるとの見方があるが、さらなる研究が期待される(NASA提供)

インサイトは地表に設置した地震計により、これまでに480回超の地震を記録した。1970年代に米着陸機バイキング1、2号も観測を試みたものの、地震計が探査機上部にありデータが不明瞭で、インサイトが地球以外の惑星での初の地震観測を果たした。火星中心部の核が液体か固体かを調べるための電波実験なども進めるため、NASAは今年に入り、インサイトの運用を来年末まで2年延長することを決めている。

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