チンパンジーの群れは父系社会で、通常はメスが生まれ育った群れから出て別の群れで出産すると考えられてきた。ところが、群れに居残っての出産もさほど例外でないことが分かった、と京都大学などの研究グループが発表した。チンパンジーのみならず、ヒトを含む動物の社会構造の理解につながる成果という。

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    生まれ育った群れに居残ったチンパンジーのメス(中央)。左はその子供、右は母親。母親が娘の毛づくろいをしている=2015年、タンザニア・マハレ山塊国立公園(松本卓也氏撮影、提供)

研究グループは2013~14年に、東アフリカ・タンザニアにあるマハレ山塊国立公園の野生チンパンジーの特定集団で生まれ育ち、居残って出産したメス2頭に着目し、1993~98年に同じ集団で同様に行動した5頭と合わせて分析した。詳しい観察や検討の結果、メスが居残る要因として(1)集団内の頭数が減ったり、環境が良くなったりして餌の取り合いが和らぐこと、(2)母親や身近なメスからの子育ての援助があること、(3)仲の良い同年代のメスも居残っていること、(4)比較的若い年齢で出産すること――が考えられることが分かった。

この2期間に挟まれた1999~2012年には居残るメスがみられなかったが、この時期はそもそも、性的に成熟したメス自体が少なかった。また、これまで長期調査が行われた5カ所のデータを調べたところ、程度の差はあれ、どの場所でも居残って出産するメスがいたことが分かった。

こうした結果から研究グループは、チンパンジーの群れは全体的には父系社会ではあるものの、メスが生まれ育った群れで出産することは必ずしも例外ではなく、従来の定説より一般的であるとみられることを見いだした。オスとメスのどちらが残るか、出て行くかという、明確な二項対立では割り切れず、再検討する必要があるとみている。ただ、居残るメスが一般的であることを示し、その理由まではっきりさせるにはまだ事例が足りず、さらに調査を続ける必要があるという。

なお、今回観察した2頭のうち1頭は、結果的に別のオスとの間に子供を生んでいるものの、排卵の可能性の高い発情周期後半に兄と交尾していた。メスが群れを出るのは近親交配の回避のためといわれてきたが、この事例から、確かにチンパンジー社会全体として回避する結果になっているものの、個々のメスとしては行動上回避しておらず、必ずしもそれが直接の理由ではないことがうかがえる。

哺乳類のうち集団生活を営む種では、オスかメスの少なくとも一方が生まれ育った群れから出ていく。このことには近親交配を避けられる、血縁の近い仲間と餌を取りあわずに済む、より良い資源や繁殖の相手を選べるといったメリットがある。反面、血縁の近い仲間から支援を受けられなくなる、餌の場所が分からなくなるなどのデメリットがある。チンパンジーやクモザルはメスが出ていき、居残るメスは例外と考えられてきた。ニホンザルは逆にオスが出ていくことが知られている。

総合地球環境学研究所の松本卓也外来研究員(進化人類学、研究当時は京都大学大学院博士課程)は「チンパンジーのメスは、ある程度選択肢を持っているようにみえる。他の種でも例外とされてきたことに焦点を当てると、ヒトを含む動物の社会に対する理解が進むのでは。ヒトとチンパンジー共通の祖先がどんな社会を営んでいたのかを探る上でも興味深い」と述べている。

研究グループは京都大学、酪農学園大学、北海道大学、東邦大学で構成。成果は14日に霊長類学の国際専門誌「プリメーツ」電子版に掲載された。

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