京都大学は12月14日、カイコの脱皮の回数が決まる仕組みとして、幼虫の前胸腺と呼ばれる内分泌腺で特異的に発現するHox遺伝子の1つである「Scr(Sex combs reduced)遺伝子」で決定される証拠を得ることに成功したと発表した。

同成果は、同大大学院農学研究科の大門高明 教授らの研究グループによるもの。詳細は米国科学雑誌「Current Biology」(オンライン版)に掲載された。

カイコの幼虫は通常、4回の脱皮(眠)を経て5齢幼虫となった後に、蛹へと変態するが、中には脱皮回数が3回の系統や、5回の系統も存在しており、その回数は「眠性」と呼ばれる1つの遺伝子座によってもたらされることが知られていたが、その詳細な仕組みは100年以上よくわかっていなかった。そこで研究グループは今回、カイコのゲノム解析を実施。眠性遺伝子の原因遺伝子を探索したところ、Hox遺伝子の1つであるScr遺伝子が有力な候補であることを突き止め、その発現パターンの解析などを行った結果、カイコ幼虫ではScrは前胸腺と呼ばれる内分泌腺で特異的に発現すること、ならびにScrの発現が喪失されたカイコでは、通常4回脱皮の系統が5回脱皮の系統へと転換することなどを確認し、Scr遺伝子がカイコの脱皮回数を決定することを突き止めたという。

  • カイコ

    カイコの標準系統の幼虫。下が眠に入った脱皮期の4齢幼虫。上が脱皮を終えた5齢幼虫の個体で、四度の眠を経て5齢(終齢)となり、大量の桑の葉を食べ、やがて絹糸を吐いて繭をつくる (出所:京大プレスリリースPDF)

また、その脱皮回数の多様性の仕組みについては、3回の系統では前胸腺におけるScrの発現量が顕著に高くなっており、その結果、脱皮ホルモンの血中濃度が低下して幼虫脱皮が起きるタイミングが遅延すること、ならびに5回の系統では前胸腺におけるScrの発現が喪失し、その結果、脱皮ホルモンの血中濃度が増加して幼虫脱皮のタイミングが早くなることが判明したとする。

さらに、各系統での体のサイズを測ったところ、脱皮の最後(終齢)に至るサイズは一定であり、3回の系統は成長率が高く、5回系統は成長率が遅いことも判明。Scrが幼虫の成長率をコントロールすることで、脱皮回数を決定することが示されたという。

  • カイコ

    カイコの脱皮回数が決まる仕組み。横軸は幼虫の齢数、縦軸は体サイズ(対数)をそれぞれ示している。眠性遺伝子は体液中の脱皮ホルモンの濃度を調節しており、3眠遺伝子の場合、脱皮ホルモンの濃度が低下し、成長率が上昇。その結果、4齢が終齢となる。一方、5眠遺伝子をもつと、脱皮ホルモンの濃度が上昇し、成長率が低下。その結果、6齢が終齢となる (出所:京大プレスリリースPDF)

なお、研究グループでは、Hox遺伝子は動物の体制(ボディプラン)を決定する遺伝子として知られてきたが、今回の成果は、Hox遺伝子が動物の生理学的な形質も制御することを示した成果であるとしている。また、今回の成果は、昆虫の脱皮回数をターゲットとした昆虫の形質デザインや、新たな害虫防除技術の開発へとつながる可能性もあるとしている。