化粧品、衣服および家具などの色を重視する購入の場合、消費者はコンピュータのモニターや携帯電話に表示される色の評価が難しいために購入を思いとどまっているのが現状です。

購入者が購入予定の色を明確に伝え、それを参照色または既知の商品の色と比較する信頼できる方法があれば、購入プロセスに対する消費者の信頼と満足感はより高くなるはずです。

amsはX-Riteおよびパントンと協力して、携帯電話でこうした精密なカラーマッチングが実現できる技術を導入します。この記事では以下の内容を説明しています。

  • 可視光の複雑なスペクトル「シグネチャ」と可視光に対する人間の目のXYZ(三刺激)応答の粗雑さ
  • 業務用測色計などの色測定機器が、化粧品の色選択などの消費者向け使用事例に向かない理由
  • あらゆる環境光条件の下でリモートの対象物を評価する際に、正確に色測定しパントン色見本の割当を提供するための、分光計のオンチップ製品に実装されたamsの技術
  • 消費者の購入体験の一部としてパントンのカラーマッチングとライセンス供与をサポートするための、携帯電話メーカー、製品メーカー、小売店、eコマース運営者を含むエコシステム

画面の向こうの商品の本当の色、分かります?

オンライン小売サイトの返品統計データを見ていくと、商品がオンラインチャンネルから返品される主な理由は、商品が写真または説明とは異なって見える/一致しないことにあります。ドレス、椅子、ベッドシーツ、あるいは口紅などのオンライン購入を検討している消費者は、実際の色やその濃淡をどうすれば知ることができるのでしょうか? 小売店の負担を軽減し、消費者の満足度を高めるには、色をマッチングさせる方法が役に立つはずです。

プロのデザインの世界では、色は色見本によって高い精度と緻密さで示されます。その中でもっとも知られているのが「PANTONE」カラーシステムです。10,000以上ものパントンカラーは、特定の用途向けに最適化されたさまざまなカラーシステムで定義されています。例えば、パントン・ファッション・ホーム・インテリアのカラーシステムは2,734色、化粧品向けのパントン・スキントーン・ガイドは110色で構成されています。色を表すパントンの精密なコードは、例えば、ファッション業界では生地供給業者が提供する素材がデザイナーの指定した色にマッチしていることを確認したり、化粧品の製造寿命が尽きるまで一貫した色を保つことができるかどうかの検証など、幅広く使用されています。

今日、一般の消費者はオンライン購入の決断を下す指針として、このような参照を持ち合わせていません。消費者の店舗離れが進み自宅でくつろぎながらより便利なオンライン購入の方を好むなか、衣服、靴、家具、化粧品のオンライン業者は市場を継続的に成長させたいと考えています。消費者がこうした製品を一つひとつ選んでいく際に、色は重要な要素となります。最近の研究1)では、人が購入を決めるときの93%は見た目が決め手となっていることが明らかになっていますが、中でも色は重要な役割を果たしています。しかし現在、消費者は自分の望む色を正確に指定できません。

このため、2つの望ましくない影響が生じています。1つは、購入した商品の色が期待していたものと異なっていることが分かった後、オンラインショッピングを避けるようになる消費者が一定の割合でいるということ。もう1つは、小売店が消費者から返品された商品の発送と取り扱いのために、または返品を無くす為にサンプルを試供するといった無駄の多いプロセスを導入することで、余分なコストを負わなければならなく、これも購入プロセスにかかる時間を引き延ばしています。

これら2つの要素は、事業者がeコマースから得られたはずの利益に影響を及ぼします。

しかし、現在では、パントンカラーシステムと組み合わされた高機能の光学半導体センサ技術が一段の進歩を遂げており、塗装された壁からドレス、ソファー、肌の色まで、あらゆるものの精密なパントン色見本を生成することで、消費者が携帯電話を使って、色をマッチングさせたい商品を正確に測定できるようになることが期待されています。

自社製品向けのPantone見本の使用を認可したり、顧客から提供されたパントン見本に基づいてカラーマッチを提案する小売店のエコシステムに支えられたこの新しいパントンのモバイル向け検索機能は、eコマース体験を一変させると同時に、消費者のオンラインストアへの信頼をこれまで以上に高め、小売店の顧客サービスに要するコストの削減を実現します。

色センサ、それともスペクトルセンサ?

消費者がカラーマッチングを行おうとする場合、その機能は直ちに使用できるものであり、なおかつ操作も簡単でなければなりません。これを実現するもっとも効果的な方法は、携帯電話にカラーマッチング機能を組み込むことです。しかし、これにはサイズと電力面での制限をクリアする必要があります。専門的環境または商業的環境では、カラーチェックとカラーマッチングは独立型の比色計または分光光度計によって実施されています。分光光度計は、基準光で照らされたときにテスト対象の素材の詳細な特性を評価する実験装置です。

こうした実験室向け装置の代わりとなるような消費者向けデバイスといえば、スペクトルカラーセンサを備えたポータブル機器があります。携帯型分光計は業務向けには提供されていますが、色彩評価や検索技術を携帯電話へ直接統合されることによる便利さと使いやすさを求める消費者には、広く受け入れられていません(図1参照)。

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    図1:X-RiteによるCAPSUREコスメティックは肌の色を測定するポータブルデバイスで、消費者向けに化粧品を推奨します (Image credit:X-Rite)

しかし、消費者が携帯電話を使って自分の目に映る物体の色をPantone見本にマッチさせられるようにするには、携帯電話メーカーはチップサイズの色測定装置が必要になります。

実際、amsの「AS7261N」などのチップサイズの色測定装置は、すでにバッテリー駆動のポータブル測色計で使用されています。AS7261Nは、人間の目のような三刺激標準観測者の色応答に準拠する、直接のXYZセンサデータを提供します。そのマルチチャンネル型フィルタセットには、ダークチャンネル、クリアチャンネル、近赤外チャンネルだけでなくXYZカラーセンシングチャンネルが備っているため、反射測定を行う際に、チップによる環境光のスペクトル成分の特性評価を可能にします。4.5mm×4.7mm×2.5mmのLGAパッケージは、センサアレイに入ってくる光を制御する組み込み式口径を装備しているため、さまざまなタイプのポータブル機器に収められるほどに小型化されています。

すべてのスマートフォンにはすでに、ディスプレイの輝度調整、ディスプレイの色補正、カメラ画像の補正などの機能をサポートする何らかの光学センサが備わっています。これらの光学センサのデザインは、携帯電話に適用されるサイズとソフトウェア実装を含めた特定の制約を守らなければなりません。しかし、特定の改変を加えると、スマートフォンに埋め込まれた光学センサからも、AS7261などのデバイスにより提供されるスペクトルデータと同様の精度を得ることが可能になります。 また、スペクトルセンシング機能を統合することにより、携帯電話では初めて、場合によっては人間の目が持つ信頼性を超えるレベルで、高い精密性と信頼性でパントンの色識別を実行できるようになります。

実は人間の視覚というものは、どちらかというと粗雑な機能です。「標準観測者」機能として知られるCIE(国際照明委員会)のXYZ三刺激モデルは、業界が人間の視覚の参照として使用します。これは、約390nm~700nmの範囲で、可視光の波長に対する人間の目の感度を表します。人間の目には3つの色受容体があり、それぞれがX、Y、Z関数として表されるスペクトルの赤、緑、青部分の広い波長範囲に応答します(図2参照)。

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    図2:人間の視覚のCIE標準観測者モデル (Image credit:User:Acdx under Creative Commons license)

しかし、知覚される色のほとんどは数百もの異なるスペクトルの組み合わせにより表されます。単純な例で示すと、オレンジ色は光が100%オレンジ色の物体から反射されるとき、または赤色が50%、黄色が50%の混合色の物体から反射されるときに表されます。色素の比率が正しくて、参照光源の下にあれば、人間の目はどちらもオレンジとして見ます。一方、スペクトルセンサは2つの異なる色合成を区別できます。

可視光のスペクトルが複雑であるということは、人間の目が騙されて「間違った色」を認識してしまうことを意味します。そうした現象の1つとして知られているメタメリズム(条件等色)では、異なるスペクトル特性を持つ2つの物体は、人間の目にはある照明条件の下では同じ色として認識されますが、別の照明条件下では異なる色として見えます。上記の例で、赤味が強い白熱照明下で見た場合、2つの「オレンジ色」の物体はもはや同じ色としては見えません。

口紅の色を革製のハンドバッグと、またはカーペットの色をソファと合わせるとき、こうしたミスマッチが起こってはなりません。また、ある状況では2つの商品がマッチしているように見えるのに、別の場所で見ると驚くほど合わないという事態を改善するには、精神的にも金銭的にも負担がかかります。

このように、メタメリックペアを真のカラーマッチと取り違えるリスクは、分光光度計技術を応用することで排除できます。

このような信頼性の高い色の比較機能を携帯電話に実装するには、パントンカラーを正確に見分けることができ、かつチップサイズのスペクトルセンサに基づいたシステムが必要となります。このようなシステムの要素は、すでに現在存在しているのです。amsは、ウエハ上に作成された特許取得済みの干渉フィルタ技術に基づいた、マルチチャンネル型スペクトルセンサICの開発を進めてきました。AS7261Nを作成するこれらの色フィルタは非常に小さく、精密で、時間の経過や温度変化にも安定性を失いません。

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    図3:3.1mm×2mm×1mmパッケージで提供される次世代のAS7341スペクトルセンサ (Image credit:ams)

X-Riteとの協力関係で実現したamsの最新のスペクトルセンサ「AS7341」は、消費者向けデバイスのカラーマッチングに最適化されています(図3参照)。

このセンサは11のセンシングチャンネルを持っており、可視光スペクトルを8つの等間隔の周波数帯に分割し、単一のクリアチャンネル、フリッカチャンネル、近赤外チャンネルも提供します(図4参照)。8チャンネルのスペクトル出力はパントンが開発した色システム内にマップされているため、業者が色を伝えたり、商品を色のトレンドにリンクさせたり、色の組み合わせに対するバイヤーの好みを支援することが可能になります。AS7341のクリアチャンネルにより、光源または環境光の色に対してスペクトル測定値を較正することが可能になるため、ほとんどすべての照明条件下、必要であれば少し離れたところでも、カラーマッチング操作をサポートできます。

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    図4:AS7341スペクトルセンサのスペクトル感度 (Image credit:ams)

パントン色見本を支えるエコシステム

チップサイズのコンポーネントは今日のポータブルデバイスにすでに存在しています。次のステップは、分光光度法の携帯電話への組み込みです。amsはパントンとその親会社であるX-Riteと協力し、消費者に提供される製品情報の一部としてパントン色見本の使用を認可するために、小売店および主要な製品メーカーのエコシステムを構築しています。このようなエコシステムは、化粧品、家具、アパレルなどパントンと関わりの深い、多くの色重視の購買カテゴリにおいて、パントンカラーの相互参照をサポートする機能を持つことができます。

このようなエコシステムが実現することで初めて、カラーマッチングした携帯電話を持っている消費者は、自宅でカーペットの色を測定し、オンラインの家具小売店がライセンス販売するパントンのカラーマッチしたカーテンとペアにすることができます。もう、実店舗に足を運んだり、見本を請求したりする必要はなくなります。

このことは消費者のオンラインショッピング体験に対する満足感を高め、eコマースの運営者にとっては、オンラインと現実世界をつなぐ唯一無二の架け橋となります。重要なのは、返品コストと販売コストが低下するとともに、オンラインでの販売増加が見込まれるため、より高い利益への道が開かれるということです。

業界と消費者の双方のメリットは明らかであり、それはamsのスペクトルセンサオンチップ技術とパントンのグローバルに認知されたカラーシステムのユニークな組み合わせによって可能になるのです。

著者プロフィール

Kevin Jensen(ケヴィン・ジェンセン)
ams
シニアマーケティングマネージャー

センサーおよび照明の専門家であり、マネージメント、センサー、電子工学、またビジネスの拡大戦略、国際化およびマーケティングにおける国際的な経験を持っています。
スペクトル分析、光学センサー、信号分析、システムソリューション、ソフトウェア概念のバックグラウンドを有しており、General Managementの修士号、またエンジニアリングおよびソフトウェア開発の学士号を取得しています。

ドイツと米国の二重国籍を保有、ドイツ語と英語のバイリンガル