スペースXのイーロン・マスクCEOは2018年12月末、Twitter上で、開発中の巨大宇宙船「スターシップ」の最新情報を明らかにした。機体の素材が従来のカーボンからステンレス鋼になったほか、2019年3月ごろにも飛行試験を行うという。

  • スペースXが建造中のスターシップの試験機

    スペースXが建造中のスターシップの試験機 (C) Elon Musk

ITSからBFRへ

スターシップ(Starship)は、スペースXが開発中の巨大宇宙船で、月や火星に大量の人や物資を送り込み、都市を築くことを目指している。

この宇宙船の構想は2016年9月、マスク氏自身によって発表された。当時は「惑星間輸送システム(ITS:Interplanetary Transport System)」と呼ばれていたが、2017年9月に名前が「ビッグ・ファルコン・ロケット(BFR:Big Falcon Rocket)」に改められ、宇宙船やロケットの設計も大きく変わった。

2018年9月には、ZOZOの前澤友作氏と、BFRを使った月飛行旅行を実施することを発表。さらに設計も再度変更された。

BFRの全長は118m、直径は9m。2段式のロケットで、1段目はブースターとして宇宙船を宇宙まで打ち上げ、第2段を兼ねた宇宙船の加速で地球周回軌道に乗る。ブースターも宇宙船も垂直着陸が可能で、繰り返し再使用でき、低コスト化を図っている。

機体も大きければ打ち上げ能力も強大で、100人の乗客、もしくは約100トンの物資を地球低軌道へ打ち上げられる、史上最強のロケットになる。また、宇宙船を推進剤を運ぶタンカーとして使用し、先に打ち上げた宇宙船に軌道上で推進剤を補給することで、宇宙船は100トンの物資を載せたまま、月や火星へ飛ぶこともできる。

1回あたりの打ち上げコストは約700万ドルとされ、これにより一人あたり「家が一軒買えるくらいの値段(数千万円)」で火星に行けるようになるとしている。

さらに、巨大な人工衛星の打ち上げや国際宇宙ステーションへの飛行といった、従来からあるような宇宙ミッションにも活用するとし、将来的に、「ファルコン9」ロケットや「ファルコン・ヘヴィ」ロケット、「ドラゴン」宇宙船を代替し、さらには地球上の都市間を結ぶ極超音速旅客機としても使用することが考えられている。

  • 旧BFRの想像図

    旧BFRの想像図 (C) Elon Musk

スターシップは銀色に輝くロケットに

マスク氏はこの発表時、「これが最後の大規模な設計変更になるだろう」と語っていた。しかし約2か月後の11月には、宇宙船の名前を「スターシップ」に、またブースターも「スーパー・ヘヴィ(Super Heavy)」に変えることを発表。さらに「外見はほとんど同じだが、機体やタンク、耐熱シールドの素材を根本的に変える」とも明らかにされた。

そして12月24日から27日にかけて、マスク氏はTwitterで、フォロワーからの質問に答える形で、スターシップの詳細を徐々に明らかにした。

まず従来のBFRでは、機体の構造材にカーボンを使うとされていたが、これをステンレス鋼に変更したという。使うのはSUS300シリーズで、素材は外部から購入するものの、スペースXが極低温加工するという。これによって成形される素材は「SX500」と呼ばれ、もともとはスターシップやスーパー・ヘヴィに装備するロケット・エンジン「ラプター」のために開発したものだという。

現代のロケットは、アルミやチタン、あるいはカーボンを使うのが主流で、ステンレスを使ったロケットというと、かつての「アトラス」ロケット、また現代のアトラスVの2段目などくらいしかない。また、アトラスでは軽量化のため、タンクに非常に薄いステンレスを使っており、そのままでは自重で潰れるため、つねにガスで圧力をかけて形を保つ「バルーン・タンク」という仕組みを採用していたが、スターシップはそのようなことをしなくても十分な強度をもつという。

ステンレスを使うと重くなるのではないかという質問に対して、マスク氏は「このステンレスのカーボンに対する質量あたりの強度は、常温では劣るが、極低温環境ではわずかに優れており、高温環境では大幅に優れている」と答えている。

また、表面を磨いて鏡のようにする鏡面仕上げをし、きわめて高い反射性能を実現。これにより、光・熱を反射させ、再突入時の熱の負荷を和らげることができ、耐熱システムの質量を減らすことができるという。こうしたことから、スターシップの見た目は「水銀のよう」に、銀色に輝くロケットになるという。

さらに耐熱システムも、従来は耐熱タイルを使う予定だったが、燃料の液化メタンを機体表面に流し、保護層を作るという仕組みを採用するという。詳細は不明だが、ロケット・エンジンなどの冷却において、燃焼室やノズルの内側の壁面に燃料を噴射して保護層を作り、高温ガスから壁面を保護するという方法があり、それと同様の仕組みと考えられる。

そして、ロケット・エンジンのラプターについても、大幅な設計変更を加えたという。フルフロウ二段燃焼サイクルはそのままで、時間(おそらく生産性)の向上ができ、また結果的に性能なども劇的に向上したという。ただ、当初計画していた燃焼圧300気圧の実現にはまだ時間がかかるという。

2019年3月にも試験飛行

マスク氏はまた、テキサス州の同社の発射場で組み立て中の、スターシップの試験機の写真も公開した。

試験機の直径は実機と同じく9m、全長は少し短くなっているという。マスク氏によると、早ければ2019年3~4月にも、この試験機を使って"ホップ"(エンジンで少しだけ飛び上がって着陸する)試験を行いたいという。また同じころに、設計変更の詳細を明らかにするとしている。

また、この新たな設計の採用により開発や試験が加速できるとし、2020年にスターシップが地球周回軌道に到達できる可能性を「60%」と見積もっている。

さらに、「スターシップという名前は恒星間飛行ができる宇宙船につけるべきでは」という意見に対しては、「将来的には恒星間飛行ができるようにしたい」と答え、今後のさらなる改良も匂わせた。

  • 建造中のスターシップの試験機

    イーロン・マスク氏が公開した、建造中のスターシップの試験機 (C) Elon Musk

出典

Elon Musk(@elonmusk)さん | Twitterからの返信付きツイート
Mars | SpaceX

著者プロフィール

鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュースや論考の執筆、新聞やテレビ、ラジオでの解説などを行なっている。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。

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