マンチェスター大学・英国立グラフェン研究所(NGI:National Graphene Institute)の研究チームは、グラフェン膜に対する水の透過しやすさを電気的に制御することに成功したと発表した。人工的な生物システム、再生医療、ろ過技術などへの応用が期待される。研究論文は科学誌「Nature」に掲載された。
グラフェンは、液体および気体に対する調整可能なフィルタリング機能や完全なバリア機能などをもたせた「スマートメンブレン」として利用できると考えられている。今回の研究で、Rahul Nair教授が率いるチームは、酸化グラフェン膜を透過する水の流れを電流によって精密に制御できることを実証した。水が酸化グラフェン膜を急速に透過する状態から完全遮断された状態まで必要に応じて制御できるという。
Nair教授は、「分子の透過性を外部刺激によって精密かつ可逆的に制御できるスマートメンブレンには、物理、化学、ライフサイエンスといった幅広い科学研究領域から強い関心が集まっている」とコメントしている。
研究チームは今回、電気的に絶縁体である酸化グラフェン膜に導電性ナノフィラメントを埋め込んだ。ナノフィラメントに電気が流れると大きな電界が生じ、この電界によって水分子がイオン化される。水のイオン化を電気的に制御することによって、膜中の毛細管状のグラフェンを通過する水の移動を制御することができる。
膜を透過する水の流れを電気的に制御するという今回の研究成果は、電気信号が主な外部刺激になっているいくつかの生物学的プロセスとの類似性がある。腎臓の水保持機能、体温調節機能、消化機能などにおいても、水の移動の制御は重要な意味をもっている。研究チームは今回の研究について、人工的な生物システムやナノ流体デバイス開発のための新たな道を開くものであるとしている。
グラフェンを利用したスマートメンブレンは、膜としてだけでなく、水を吸収する「スマートスポンジ」に応用できる可能性もある。スマートスポンジは、電流が流れている間は砂漠環境下であっても内部に水を蓄えておくことができ、必要なときに電流を切って水を取り出せるデバイスである。
同チームは、先行研究として、海水からの塩分除去(淡水化処理)に酸化グラフェン膜が利用できることを実証していた。2017年には、酸化グラフェン膜を使ってウイスキーから着色顔料を除去できることも示している。顔料除去処理によってウイスキーのその他の性質には影響が出ないと報告されている。