京都大学(京大)は、シロアリの社会における個体の年齢と役割分業の関係を分析し、高齢の兵隊アリが死亡リスクの高い最前線で天敵と戦う役割を担い、若い兵隊アリは死亡リスクの低い巣の中心部で王や女王の近衛兵としての役割を担っていることが判明したと発表した。

同成果は、同大農学研究科の松浦健二 教授、柳原早希氏、三高雄希 特定研究員らの研究グループによるもの。詳細は英国の学術誌「Biology Letters」に掲載された。

  • 写真の矢印は兵隊を示す。入り口を塞いでいるのが老兵(右側矢印)、部屋の中にいるのが新兵(左側矢印) (出所:京大Webサイト)

アリやハチの仲間では、個体の年齢によって仕事の内容が変わる「齢分業」が良く知られている。齢分業が進化する背景には、齢によって「それぞれの仕事をこなす能力」が異なるからという理由と、「余命の短い個体がリスクを負った方が、機会損失が小さい」という理由が考えられてきた。

しかし、アリやハチのワーカーは、一生のうちに育児から採餌までさまざまな仕事に従事するので、前者と後者の原理を分離して評価することはできない。では、仕事の能力が同じ場合、余命の短い方がよりリスクの高い仕事を引き受けるのか? という疑問が生じる。 この余命に基づく分業の実態を調べる上で好適な材料が、シロアリの兵隊だ。ヤマトシロアリでは、初夏にワーカーの一部が脱皮をして巣の防衛に特化した兵隊になる。兵隊になってから約5年の寿命をもつと考えられている。

分化したばかりの新兵が最前線で戦って死亡した場合、その個体が生きていればあと5年出来ていたはずの防衛機会を失う。しかし、5年目の老兵が戦いで死亡しても、近々寿命を迎える運命だったので機会損失はわずかだ。余命によってリスクの取り方が異なるのであれば、老兵と新兵で配置や防衛行動が異なることが予測される。

そこで研究グループは年齢の異なる兵隊を用意して、老兵と新兵で天敵に対する防衛行動や巣内での配置が異なるのか、実験的に検証した。

その結果、老兵と新兵で防衛能力自体は変わらないものの、老兵が最前線に出て天敵と戦い、新兵は天敵と直接戦うことがめったにない王室で近衛兵としての役割を担っていることが分かった。

つまり、仕事をこなす能力の違いではなく、余命の短い個体が高いリスクを取るという機会損失の最小化の原理によって、兵隊内での齢分業が行われていることが示された。

なお、今回の成果を受けて研究グループは、今後兵隊の加齢に伴う脳内物質の変化や遺伝子発現の変化を調べることで齢分業を制御している至近メカニズムの理解も進むと期待されるとしている。