東京医科歯科大学は、保存期腎不全患者におけるループ利尿薬使用がサルコペニア合併リスクと関連する可能性があると発表した。ループ利尿薬は慢性腎臓病患者の体液管理目的で頻用される薬だが、その適切な利用を推奨する臨床データとなる可能性があるという。

  • サルコペニア合併のオッズ比

    サルコペニア合併のオッズ比(単変量および多変量解析 多変量解析の共変量:年齢、性別、BMI、eGFRcr、糖尿病)

同研究は、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科腎臓内科学分野の内田信一教授と内藤省太郎講師の研究グループによるもので、同研究成果は、2月15日に国際科学誌「PLOS ONE」オンライン版で発表された。

骨格筋の筋量や機能低下の病態として定義されるサルコペニアは、慢性腎臓病(CKD)などの各種疾患やポリファーマシー(多剤併用中の患者における有害事象の発生)と合併し得ると近年の研究で示されている。しかし、透析導入前の保存期CKD患者では、降圧薬、利尿薬、経口血糖降下薬、尿酸降下薬など様々な種類の薬剤が併用されるが、これらがサルコペニアとどれだけ関与しているかは、これまでほとんど明らかではなかった。

同研究グループは、保存期CKD患者の前向きコホートを作成し、CKD治療に用いられる薬剤に着目しつつサルコペニアのリスク因子について調べた。推算糸球体濾過量(eGFR)60ml/min/1.73m2未満の高齢者260人を解析対象とし、サルコペニアに関与する因子と考えられる性別、年齢、CKD原疾患、内服歴、合併症のデータを抽出し、サルコペニアと各因子の関連をロジスティック回帰分析にて解析した。その結果、年齢、性別、BMI、eGFR、糖尿病を共変量とする多変量解析では、全利尿薬、ループ利尿薬に有意な関連が認められ、サルコペニアのリスク因子である可能性が高いと考えられた。その他高齢者、男性、BMI低値、糖尿病や、他の内服薬の多くはサルコペニアとの有意な関連は認めず、尿酸降下薬は多変量解析においては1個のモデルで弱い関連を認めるのみで、サルコペニアのリスク因子と考えるには根拠に乏しい結果となった。

2017年4月には、ループ利尿薬はマウスの骨格筋の分化および肥大を抑制する旨が報告されており、ループ利尿薬はサルコペニアに関与しているのではないかと考えられていたが、同臨床研究により関連が示唆された結果となった。ループ利尿薬は心疾患や腎疾患の患者の浮腫などに対して広く用いられる薬だが、今回の臨床研究で、その使用によりサルコペニア合併のリスクが上昇する可能性が示された。薬剤自体がサルコペニア合併に関与しているかは今後の前向き研究が必要となるが、同研究成果は、患者の状態に応じたループ利尿薬の適正な利用を推奨する臨床データになり得ると考えられるということだ。