東京医科歯科大学は、同大学大学院医歯学総合研究科腎臓内科学分野の内田信一教授、萬代新太郎大学院生らの研究グループが、ループ利尿薬のターゲットでもある Na-K-Cl共輸送体(NKCC)が、骨格筋の形成、肥大の制御因子であることを発見した。

この研究成果は4月18日、国際科学誌「Scientific Reports」オンライン版に掲載された。

ループ利尿薬はマウス骨格筋細胞の分化、運動による筋肥大を抑制する(出所:東京医科歯科大学 リリースページ※PDF)

骨格筋量や筋力が低下した病態であるサルコペニアは、心疾患、腎疾患、癌といった疾患だけでなく、加齢によっても進行することが知られている。サルコペニアを治療することは、介護や寝たきりの予防、健康寿命、ひいては寿命自体の延長にもつながるとして近年注目されているが、運動療法や食事療法以外に有効な治療法が確立していない。

このたび研究グループは、、心疾患、腎疾患といった浮腫性疾患や高血圧に対し広く一般的に用いられる有効な治療薬である「Na-K-Cl共輸送体」(NKCC)が、骨格筋においては筋芽細胞の分化や骨格筋肥大の制御因子であることを突き止めた。

骨格筋分化モデル細胞であるC2C12マウス骨格筋細胞において分化誘導を行うと、 NKCC1のタンパク発現量が複数の分化マーカー遺伝子群とともに経時的に増大することを発見するとともに、ループ利尿薬であるブメタニド、フロセミドを使用し NKCC1を阻害すると、fusion index、分化マーカー遺伝子群のタンパク、mRNA発現量がいずれも抑制されることを示したという。

さらに、6週間の運動トレーニングを行ったマウスでは、骨格筋のNKCC1発現量の増加、筋線維断面積の増大を認めたという。その一方で、ブメタニドの高用量(10 mg/kg/日)、および利尿作用を伴わない低用量(0.2 mg/kg/日)の腹腔内連日投与を同時に行ったマウスにおいては、運動による筋肥大効果が抑制されることが判明したということだ。

この研究結果は、サルコペニアの病態解明に寄与する成果であり、NKCC をターゲットとした新規治療法への応用として期待される。さらに、疾患の必要度に応じたループ利尿薬の適切な使用を推奨する基礎データとなる可能性も考えられるとしている。