東京工業大学(東工大)は9月26日、環状の白金錯体を利用して白金原子数5~12の原子数のクラスター担持触媒をミリグラムオーダーで合成することに成功したと発表した。

同成果は、東京工業大学科学技術創成研究院化学生命科学研究所 今岡享稔准教授、山元公寿教授らの研究グループによるもので、9月25日付の英国科学誌「Nature Communications」に掲載された。

サブナノメートルサイズの金属クラスター(金属サブナノ粒子)はナノ粒子とは大きく異なる性質を持っていることが知られている。たとえば白金サブナノ粒子は、プロパンの脱水素化反応がバルクの白金表面に比べて40~100倍の活性となったり、燃料電池の酸素還元反応が10倍以上の質量活性となる。

一方で、金属クラスターにおいては、構成原子数がひとつ変化するだけでその特性が大きく変化するため、クラスター触媒の特性を十分に引き出すためには、高い精度と単分散性が必要とされる。しかし、原子レベルの精度でこれらを得る方法はこれまで、気相合成と質量分別を組み合わせるのが唯一の方法であり、またその合成量はわずかであった。

今回、同研究グループは、原子数が明確な白金クラスターを合成するための原料として白金多核錯体に着目。同族のニッケルやパラジウムでは、チオラートと呼ばれる硫黄系の架橋配位子を含む環状錯体がすでに存在していたことから、白金でも同様の構造ができると考え、合成と精製条件を検討したところ、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を用いることで5核~12核までのすべての純粋な環状白金チオラート錯体を単離精製することに成功した。

さらに、得られた各種白金錯体を原料として、その核数を完全に維持した状態でカーボン担体上に各種白金クラスター(Pt5~Pt12)を生成する方法を発見。各クラスターを選択的にミリグラムスケールで合成することに成功した。これらの白金クラスター触媒は、スチレンの水素化反応に対して高い活性を有しており、触媒として再利用することも可能であることが確かめられている。

同合成法は、従来の気相合成法に対して桁違いに大きなスケールで行うことができ、原理的にはグラムスケール以上で行うことも可能だという。

8原子の白金からなるクラスターPt8の合成模式図と得られたクラスター担持カーボンの暗視野STEM像(上段)。同様の方法で核数の異なる各種白金錯体から得られたクラスターそれぞれのSTEM原子像(下段) (出所:東工大Webサイト)