北海道大学(北大)は8月25日、開放量子系におけるPT対称性と呼ばれる新奇対称性とトポロジカルな性質に由来する局在状態の理論を構築し、その状態を観測することにより理論の正当性を実証したと発表した。

同成果は、北海道大学大学院工学研究院応用物理学部門 小布施秀明助教、同大学院生の望月健氏、チューリッヒ工科大学の大学院生 金多景氏、京都大学大学院理学研究科物理学・宇宙物理学専攻 川上則雄教授、東南大学らの研究グループによるもので、7月31日付の英国科学誌「Nature Physics」オンライン版に掲載された。

通常の量子力学では、外界からの粒子の流出入がないと仮定し、外部から孤立した系に対して理論構築を行う。このような孤立した系では、実験で観測できるエネルギーなどの量が実数になることが理論的に保証される。一方で、粒子が出入りする状況の量子力学での説明には困難が伴う。しかし、このような開放量子系でも、粒子の流入と流出が釣り合っている場合、PT対称性という特殊な対称性が存在するため、そのような状況を簡単に説明できるという理論提案がなされていた。

今回、同研究グループは、量子ウォークと呼ばれる系では光子の流出量を実験的に制御できることに着目。流出効果のある量子ウォークに対して、PT対称性が存在する具体的な系を構築し、PT対称性の存在を示す証拠となる状態として、トポロジカル相に由来するエッジ状態を用いた。PT対称性を有する流出効果のある量子ウォークに対し、この状態に関する理論解析を行ったところ、トポロジカル相に起因するエッジ状態の存在確率のみが時間が経っても減衰しにくくなることがわかった。

さらに、この現象を実際に観測すれば、真の開放量子系においてもPT対称性による記述が可能であることの実験的な証拠になると考えた同研究グループは、光子の減衰効果を高精度で制御可能な量子ウォークの実験を行い、ある時間における光子の存在確率分布を実験的に測定した。この結果、理論予測どおり、トポロジカル相に起因するエッジ状態が存在すると予測される場所で確率分布が極めて大きなピークを示すことがわかった。さらに、ピークのある場所の存在確率は、時間が経ってもほとんど減衰しないことが確認できた。

同研究グループは今回の成果について、量子コンピューター実現のために必要な構成デバイス間の情報の量子力学的な伝達を安定かつ効率的に行う新たな手法や、新規のレーザー発振などの応用への道が開けたものと説明している。

エッジ状態がある場合とない場合におけるPT対称な量子ウォークの存在確率とその時間変化 (出所:北大Webサイト)