物質・材料研究機構(NIMS)は、分子を量子ドットとして用いた縦型共鳴トンネルトランジスタの作製および動作実証に成功したことを発表した。

同成果は、NIMS 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 量子デバイス工学グループの早川竜馬 主任研究員、若山裕 グループリーダー、統合型材料開発・情報基盤部門 情報統合型物質・材料研究拠点の知京豊裕 副拠点長らによるもの。詳細は英国王立化学会が発行する「Nanoscale」に掲載された。

半導体プロセスの微細化は10nmを切る段階に入り、その限界が見えつつある状況となってきた。そうした中、ムーアの法則を維持していくためには、従来のトランジスタの動作原理とは異なる新たなトランジスタの開発が求められており、電子のトンネリングを利用したトンネルトランジスタや、半導体や金属のナノ粒子を量子ドットとして利用する単電子トランジスタなどが考案されているが、トンネルトランジスタは従来の0と1の2値動作と変わらず、一方の単電子トランジスタに至っては、量子ドットの粒経をナノスケールで均一に制御することが困難なため、実用化にすら至っていない。

これらのほか、単一分子を電子回路に用いる分子デバイスも、長年にわたって研究が進められてきているが、提唱から40年を経ても、実用的なデバイス構造が提案されていないという点から、実用化には至っていなかった。

研究グループではこれまでの分子デバイスの研究を踏まえ、今回、分子を内包したトンネル2重接合をチャネル層に用いた新規縦型共鳴トンネルトランジスタを提案し、その動作実証にも成功したという。

具体的には、分子にC60を採用し、個々の分子は、ソース電極の上に成膜された絶縁膜であるAl2O3とSiO2の間に埋め込まれる形で縦型トランジスタの作製が行われた。これにより、従来、分子デバイスの実用化を阻害していたレジストなどの有機材料による分子材料の溶解などを絶縁膜が保護層として働くことで防ぐことができ、既存の露光技術を用いた加工が可能になったとする。

実際の動作実証では、ゲート電圧の印加で、ドレイン電流が変調していることを確認。ドレイン電流のON/OFF比は104と、これまでに報告されている単分子トランジスタや自己組織化膜を用いた単分子層トランジスタと比べて1桁以上高い値であったという。また、分子のエネルギー準位に対応するステップ電圧位置とゲート電圧との関係を検討した結果、シリコン基板内に形成される空乏層により、ドレイン電流が効率的に変調されていることが判明したという。

なお、研究グループでは今回の研究について、実用的な分子トランジスタの開発につながる成果と説明。今後、トランジスタチャネルとして用いている線幅の微細化や、シリコン基板のキャリア濃度の最適化などを進めることで、さらなる高性能化が期待できるとするほか、分子のエネルギー準位によりドレイン電流を多段階に制御できることから、分子設計に基づいた多値化も実現できるとしており、従来の無機材料デバイスでは実現できない分子固有の機能を兼ね備えた次世代トランジスタの実現が期待できるようになるとコメントしている。

左が分子を内包した縦型共鳴トンネルトランジスタの模式図。右が今回の研究で作製された試料断面の走査型トンネル電子顕微鏡像。個々の分子が孤立した状態でドレイン電極直下に形成されたAl2O3とSiO2間に埋め込まれている (出所:物質・材料研究機構Webサイト)