北海道大学(北大)は5月23日、赤外発光を示すメカノクロミック分子の開発に成功したと発表した。

同成果は、北海道大学大学院工学研究院 伊藤肇教授、長谷川靖哉教授、関朋宏助教、同大学院理学研究院 武次徹也教授らの研究グループによるもので、5月2日付けの米国科学誌「Journal of the American Chemical Society」オンライン版に掲載された。

メカノクロミズムとは、こする、すりつぶすといった機械的刺激を与えることで固体や液晶材料の発光特性が変化する現象で、この性質をもつ分子をメカノクロミック分子と呼ぶ。メカノクロミック分子は、発光の変化が容易に認識できるため、センサなどへの応用が期待されている。一方で、ほぼすべてのメカノクロミック分子の発光の波長は可視光領域に限定され、より長波長の赤外領域において発光するメカノクロミック分子はこれまで報告されていなかった。

今回、同研究グループは、紫外線照射下での発光が、機械的刺激により青色から赤外領域へ切り替わるメカノクロミック分子を開発した。同メカノクロミック分子は、アントリル基をもつ金錯体で、機械的刺激を与える前は青色に発光し、発光極大波長は448nmとなるが、機械的刺激を与えると発光極大波長が900nmに変化し、肉眼では発光をほぼ観測できなくなる。

今回開発されたメカノクロミック分子の写真と波長変化 (出所:北大Webサイト)

X線回折測定によって構造解析を行い、メカノクロミズム特性と赤外発光のメカニズムを考察した結果、機械的刺激による発光特性の変化は、結晶-アモルファス相転移によるもので、アモルファス化に伴い金原子間相互作用が形成されることで、発光波長が赤外領域へと長波長シフトしたと考えられるという。この考察は、理論計算の結果からも支持されることがわかっている。

同研究グループは今回の成果について、生体イメージングやセキュリティインクへの応用が期待されるとしている。