製造部門統括責任者向けフォーラム「Manufacturing Japan Summit 2017」が2月15日~16日、都内で開催された。同イベントでは独Boschの日本法人であるボッシュ(日本ボッシュ)の鷺谷武明氏が「グローバル競争下で生き抜くためのカイゼンの進化とグローバル人材の育成 -日本企業の強みと課題-」と題した講演を行った。

鷺谷氏は1984年に大学を卒業後、ヂーゼル機器に入社。2000年にヂーゼル機器がボッシュグループの一員となる。日本ボッシュではトヨタ向け製品のグローバル品質保証業務や、中国ボッシュの品質改善に従事し、現在は品質保証担当役員を務める。


グループ内のグローバル競争を勝ち抜く現場力

"グローバル競争"というと巨大企業同士の熾烈なシェア争いを思い浮かべる人も多いだろうが、鷺谷氏はBoschではグループ内でも競争があると語る。グローバルに拠点を持つBoschグループでは、同じ製品を複数の拠点で生産するが、それをどこで作るかはドイツ本社が決める。グループ内で"失注"すると仕事が無くなるため、日本ボッシュは他拠点に対し競争力を発揮する必要がある。しかし、日本ボッシュは生産拠点を海外に移してコストを下げるという手段を採れない。他の国にも拠点があるからだ。

こうした状況で日本ボッシュの強みとなっているのが"現場力""継続的改善""TQM"など、日本企業が長年培ってきたノウハウだ。Boschグループではリードプラントの生産方式を横展開する仕組みとなっており、異なる拠点でも同じ設備と手順で生産するが、鷺谷氏によれば「同じ設備・手順で作っていても(拠点間で)差が出てくる。日本は品質がグループ内で世界1位だ」という。

また、日本と欧米では改善に対する考え方が異なる。日本企業では一般的なPDCAを例に取ると、「PDCAを回す習慣は欧米にはない。敢えて言えばPDPD。CとAの発想はない」(鷺谷氏)。同氏はPDCAのハンドブックを作成しグローバルに展開するなど、Boschグループ内でのPDCA普及に向けた取り組みを進めている。

欧米企業はPDCAではなくPDPDだという(資料: Bosch)

日本ボッシュの課題

一方、日本ボッシュがBoschに見習うべき点として鷺谷氏は、ホワイトカラーの生産性を挙げる。例えば間接部門では、「(欧米拠点では)帰る時間は18時とか18時半と決まっていて、その時間に帰るためにどうするのかを考えている。残業が必要な場合は朝早く出社する。後ろが決まっているという働き方」(鷺谷氏)とし、働き方に対する意識の違いが生産性の差に現れていると指摘。BoschではTPSを間接部門に適用したVSDiAというメソッドにより、間接部門におけるプロセスの付加価値を見える化することで、無駄を洗い出していると紹介した。

管理職のマネジメント力も強化ポイント。Boschグループでは担当者とマネージャーが年に2~3回面談を行うが、欧米拠点では人材育成や管理者からのフィードバックの良い機会だと捉えられている一方で、「日本人のマネージャーにとっては苦痛となっている」(鷺谷氏)。何を話したら良いか、フィードバックが思いつかないのだという。部下との面談に苦慮するマネージャーに対し鷺谷氏は、部下の良かった点や改善したほうが良い点を日頃から記録し、活用するようアドバイスしている。

また、Boschグループでは若手社員が役員クラスのメンターとなる、リバースメンタリングを実施。IT技術や、世の中の動向などについて新入社員が役員にアドバイスする機会を定期的に設けている。こうした場は、役員がトレンドを知るだけでなく、スタッフがエグゼクティブの業務内容を学ぶチャンスとなり、次代を担う人材の育成につながる。

さらに、英語でのコミュニケーション力を向上させる取り組みとして日本ボッシュでは英語でのディベートコンテストを実施。"日本ボッシュは将来に向けた準備ができているか?"というテーマで開催したところ、立ち見客がでるほどの関心を集めたとのことだ。

鷺谷氏は最後に、グローバル人材を育成するには英語力だけでは不十分とし「日本の現場は世界最強。ただ、他国や他企業からも学び続けることが必要。(日本人は)小さな改善は得意だが、突然のルール変更やIoT、インダストリー4.0といった改革が必要な局面では戸惑うことも多い。英語は必須だが、それ以外のことも学んでいかないとグローバル人材となっていかない」と語り、講演を締めくくった。