"音と数字で奏でるメロディ♪映画カフェ"が開催

2017年1月22日(日)、東京都文京区にある講談社にて「音と数字で奏でるメロディ♪映画カフェ」が開催された。講談社は理系女子を応援する「Rikejo」プロジェクトの一環として、これまでさまざまなイベントを行ってきた。今回は、科学技術振興機構(JST)と数学オリンピック財団の協力を得て、数学の魅力を紹介するイベントを企画した。

イベントは2部構成で、第一部は、ジャズピアニストで、1996年に日本人女性で初めて国際数学オリンピックに出場し、金メダルを獲得した中島さち子さんによるトークライブとキーボードの演奏。第二部は、自閉症の少年が国際数学オリンピックへのチャレンジを通して成長していく姿を描いた映画「僕と世界の方程式」が上映され、参加者は数学の魅力や、国際数学オリンピックに参加することの意義、さらに普通は気付くことのない、数学と音楽の不思議な関係性に触れることとなった。

国際数学オリンピック金メダリストでジャズピアニストの中島さち子さんとイベント参加者たちによる記念撮影

数学オリンピック金メダリストでジャズピアニスト

「これからの時代はいろんなことをやっていいんじゃないか」と考える中島さんには、大きく3つの顔がある。まず、ジャズピアニストとしての顔。大学時代にジャズに出会い、演奏しながら曲をつくってしまう即興演奏に「音で会話する」という感覚を抱いた。それが楽しくて、都内を中心に精力的にライブ活動を行っている。

自己紹介をする中島さん。その生き方は参加者に大きな刺激となったようだ

2つ目が数学者としての顔。中学生の頃にはすでに数学の魅力に気付いており、「1つの数学の問題を1カ月以上考えることもあった」と言う。1996年、高校2年生の時に日本人女性として初めて国際数学オリンピックに出場し、金メダルを獲得。さらに翌年の大会でも、銀メダルを獲得した。その後、東京大学理学部数学科を卒業し、現在も数学者として独自に研究を続けている。

そして3つ目が、教育者としての顔だ。国際数学オリンピックに参加したことで、世界中の数学好きと出会い、主催国を始めとした参加国の文化に触れることになり、中島さんの世界は広がったと言う。若い人たちにも同じ経験をして欲しいと、教育活動に力を入れている。特に国際数学オリンピックは、女子の参加者が少ないことが世界的な問題となっており、中島さんは、数学の魅力、国際数学オリンピックに参加する楽しさを広く伝えたいと思っている。一方で、オリンピックは数学だけでなく、物理や化学、生物、情報などにもあるので、自分の得意なものにチャレンジしてはどうかと参加者らに勧めた。

中島さんは、国際数学オリンピックの思い出を語り、みんなにもぜひ経験して欲しいと語った

国際数学オリンピック級の問題にチャレンジ

続いて、国際数学オリンピックの詳細と中島さん自身の経験が語られた。現在、日本では、約3000人の高校生が国際数学オリンピックの予選に参加、試験や合宿を経て最終的に6名が選ばれる。この6名が代表として主催国へ行き、本番では3問を4時間半で解く。成績上位12分の1に金メダルと、それに続く全体の6分の1に銀メダル、さらに4分の1に銅メダルが与えられる。

「問題を解くのにこれだけ時間があると、いろいろな試行錯誤ができますね。国際数学オリンピックでは証明問題が出されることが多く、速く解くというよりは、考え抜いて独創的なアイディアを出すことが求められます。証明問題の場合、最終的な結論は同じでも、そこに至る道が無数にあるからです」と数学という学問の特徴を説明し、映画に出てくる問題に、会場のみんなと一緒に挑んだ。

ちなみに問題はこうだ。

「最初5枚のトランプが裏になり一列に並べてある。このとき、以下の操作を適当に繰り返す」

  • 裏向きのカードを適当に一枚選び、裏返す。すぐ右隣のカードも(あれば)裏返す。
  • すると、どのようにカードを選んでも、有限回数の操作の後に、(カードはすべて表になり)終了することを示せ。

実際にカードゲームをやってみる参加者たち

2人1組になって実際に操作を行い問題通りになることを確認した後、会場とやり取りしながら、この問題が2進法で証明できることを解説した。やり取りでは、「数学では、間違えてもいいからアイディアを出すこと」が大事であること。「科学全般において、研究者は1つの物事をしつこく追求すること」が求められること。そして数学の面白さとは、このトランプの操作が2進法という数学とつながったように、「関係ないと思っていたものとつながること」がある点だと語った。

自分の考えを披露する参加者。ともに考える中島さん

どこか似ている数学と音楽と人生

数学とつながる意外なものとして、音楽が紹介された。音の美しさの背後に、数の美しさがあることに気付いたのは、古代ギリシャの数学者で、哲学者だったピタゴラスだとされる。ヨーロッパでは、数学が音楽と近いという感覚は、古くから存在している。

具体的にはどういうことなのか。音は空気が振動することによって出来る波だ。振動数が大きいほど高い音になり、2倍の振動数をもつ2倍音は1オクターブ上の音である。つまり3オクターブ上の音は、2×2×2で8倍音になる。このように音には数が隠れていることが説明され、特に3倍音、5倍音、7倍音やその組み合わせによって美しい曲ができるという法則が見いだされていることが紹介された。

音楽に限らず、建築、絵画、植物など美しいものの背後には数が隠れている

トークライブの最後には、会場から好きな7つの音を選んでもらい、その音を中心に使って、中島さんが即興演奏を披露。会場から大きな拍手が送られた。

参加者が選んだ7音で演奏する中島さん。美しい音のルールを知っているから、気持ちのいい音楽を演奏できる

第二部では、「僕と世界の方程式」が上映され、参加者たちはそれぞれ「数学」と「音楽」と「人生」を感じたようだった。最後に、文部科学省の政策方針の下で「国際科学オリンピック」や「科学の甲子園」を実施しているJST理数学習推進部の小川千津課長より、「7つある国際科学オリンピックが大学の入試に取り入れられるなど、最近は社会的にもその重要性が認められるようになってきている。参加者の誰もが、国際科学オリンピックに参加しなければ得られないものがあった」といった話しが紹介され、「皆さんは今日その入口に立ったのですから、ぜひその先の扉を開けて欲しい」と会場に来ていた参加者にエールが送られ、イベントは終了となった。

JSTの小川課長