2012年2月4日に、情報オリンピック日本委員会と科学技術振興機構(JST)の主催で、理系の女子中学生・高校生を対象とした、「<リケジョ(理系女子中高生)がプログラミングに挑戦!> Scratchで体験するプログラミング・ワークショップ ~のぞいてみよう!情報オリンピックの世界~」がNTT DATA 駒場研修センターで開催された(画像1)。今回は17人の女子中高生が参加し、楽しみながらプログラミング体験をしたその模様をお届けする。

画像1。女子中高生ばっかり20人近く集まってのプログラミングワークショップ。女の子だって、プログラミングに興味を持っている子はたくさんいるのである

得てして、プログラミングとかコンピュータというと男性(男の子)のものというイメージが強い。とはいえ、さすがに現在は女性でもプログラマやSEとして活躍している人はたくさん居るし、女性の研究者やエンジニアなども珍しくなくなっているのだが、それでも諸外国と比較すると、日本は情報系の職業で活躍する女性の割合は低かったりする。そこで、もっと女の子たちにプログラミングやコンピュータに触れてもらって楽しんでもらい、将来の選択肢として情報系の道も考えてもらおうというのが、今回のイベントの主旨だ。

主催している団体に関して説明すると、JSTに関してはご存じの方も多いことだろう。科学技術を振興している独立行政法人である。研究者を助成したり、プロジェクトを立ち上げてバックアップしたりといったことをしていて、「○○大学とJST、△△を発見と共同で発表」などといった記事が、マイナビニュースのサイエンス系記事で見かけるはずだ。

そしてもう1つの情報オリンピック日本委員会だが、こちらは早稲田大学の筧捷彦教授が理事長を務める特定非営利活動(NPO)法人である。「国際情報オリンピック」という、中高生が参加資格を持つ年1回開催の国際科学オリンピックの1分野があり、同組織は日本代表の選抜や強化、派遣を軸に、情報分野に優れた児童・生徒の育成を目的とした普及・啓発活動を推進しているというわけだ。ちなみに情報オリンピックとは、プログラミングやコンピュータ科学を扱っており、「カードを指定されたとおりに並べ替えなさい」といった課題をこなせるプログラムを組み、その優劣などを競うのである。

今回のイベントは、前述したように、日本は「プログラミングとかコンピュータ分野は女性向きではない」というイメージがどうしても強いので、せっかく興味があったり、隠れた才能を持っていても触れる機会さえ少ない状況を改善しようと企画されたもの。プログラミングの体験を通じて情報分野への関心を高めるとともに、国際情報オリンピックへの参加意欲を高めることを目的としている。そして今回はいうまでもなく、特に理系女子中高生(通称「リケジョ」)への啓発を主軸としているというわけだ。

教材は、「Scratch(スクラッチ)」というビジュアルライクなプログラミング言語を利用し、それを使って簡単なゲームを作ろうという内容(画像2・3)。このScratch、マサチューセッツ工科大学(MIT)で開発されたプログラミング言語で、学問的な表現をすると、「プロトタイプベース並列オブジェクト指向ビジュアルプログラミング言語」となる。なんじゃその長さは!? 難しそう!! といいたくなるが、触ってみるとその長いプログラミング言語の種類名に反して、とてつもなく簡単なのである。

画像2。最初にスクリーンを使ってScratchの説明。未就学児童ですら使える非常に簡単なツールである

画像3。実際に女の子たちが作ったプログラム。組み合わせていくだけなので、難しい要素はない

何しろ、今回の講師であるサイバー大学の阿部和広客員教授(画像4)らがボランティアで開催している「こどもプログラミングサークル‘スクラッチ’」(近日中に、サークル名が「OtOMO(オトモ)に変更の予定)では、小学生もしくは未就学児童を対象としており、そんな小さな子どもたちでもあっという間に使い方を覚え、オリジナルのゲームを作ってしまえるほどなのだ。

画像4。サイバー大学の阿部和広客員教授。ボランティア活動の「こどもプログラミングサークル‘スクラッチ’」で、小学生や未就学児童を相手にScratchの使い方を教えている

プログラミングの例としては、まず使いたいグラフィックを選び、それに対するプログラムのパーツを組み合わせていき、必要な条件などを変更するだけ。あっという間にプログラムが完成してしまう超簡単さなのである。呪文のような英文(関数)を直接記述をするようなことは一切なく、直感的に操作できてしまうし、プログラムのパーツとパーツを組み合わせるのを見ているだけでも楽しいほどなのだ。

ScratchはMITのミッチェル・レズニック教授らが開発しているのだが、同教授はレゴマインドストームの考案者でもあり、まさにレゴブロックやマインドストームNXTなどを組み立てるような感覚で、プログラミングできてしまうスグレモノなのである。

ちなみに、Scratchはフリーでダウンロードが可能で、しかも阿部客員教授らの手によって日本語化もなされている。よって、もしこの記事を読んでいる方にお子さんがいらしたら、どんどんダウンロードして触らせて上げてみていただきたい。

ただし、今回のイベントで使用されたScratchは、Stephen Howell氏が開発したブリッジソフトウェアで、マイクロソフトのゲーム機であるXbox 360のモーションセンサ型コントローラ「Kinect」(画像5)に対応しているのが大きな特徴。ネコの顔のグラフィックの首から下がスケルトン(いわゆる棒人間)になった特別なプログラムを利用できるのだ(画像6)。ユーザーがKinectの前で身体を動かせば、ネコのスケルトンも同期して動くのはいうまでもない。というわけで、そんな特別版Scratchを利用して、女の子たちは身体を動かしながらプログラミングに挑戦したというわけだ(画像7・8)。

画像5。マイクロソフトのゲーム機Xbox 360およびPC用のモーションセンサ型コントローラのKinect。ちょっとした専門知識がいるが、接続する方法はネット上に公開されている(「こどもプログラミングサークル‘スクラッチ’」の公式サイトからたどれる)

画像6。ネコの顔をしたスケルトン。Kinectを介して、自由に全身を動かせるので、ちょっとしたアクションゲームをすぐに作れる

画像7。実際に身体を動かしてネコスケルトンを操作する女の子たち。1組に1人サポートの先生たちがついているので、わからないことがあってもすぐに教えてもらえる

画像8。若いから身体が柔らかいので、足を上げたりと激しいアクションもへっちゃら

参加した女の子たちは中学1年生から高校2年生までで、プログラミング体験のない子もいれば、経験者の子も。中には、ほかの言語で挫折してしまい、Scratchは簡単だと聞いたので触ってみたかった、というなかなかガッツのある子も。私事で恐縮だが、自分にも高1と中1の娘がいるが、彼女たちはプログラミングのプの字も興味がないし、自分が中高生の頃にパソコンに興味を持っている同級生の女の子なんぞ見た試しがなかったので、ちょっと意外である。

参加した子たちを見ていると、興味を持っている女の子たちは潜在的にもっといるのではないかと思う。Scratchのようなとても簡単なプログラミング言語を触れるような(そして使い方を教えてくれるような人がいるような)環境が身近にあれば、情報分野への女性の進出する数がもっと増えるのではないかと感じる。阿部客員教授のカリキュラムが素晴らしくわかりやすかったというのもあるが、ゲーム感覚でプログラミングできるので、我が家の娘たちみたいにまったく興味がない子でも、触ってみれば意外とハマってしまう子たちが大勢いそうな気がした。

また、今回のイベントでやはりよかったのは、Kinectがつながっていたことだろう。最初こそ、初対面の子とパートナーを組んで(2人で1台のノートPCとKinectという割り当て)の共同作業だったため、お互いに遠慮しがちだったが、Kinectでネコスケルトンを操り出すと、一気に楽しそうな雰囲気に。これまで、身体を動かしながらプログラミングを体験するなどということはなかったわけで、まさにKinectは本当にいい仕事をしていると感心してしまう。

そして、プログラムの内容は、最初はネコの顔を配置して、そのそばに円(ボールという設定)を置いてグルグル一定の半径で周回させてみたり、そのボールがネコに重なる時に「にゃー」と鳴かせてみたりとというもの。そのほか、スケルトンの関節部分に指定した色がボールに触れるとアクションを起こすとか、ネコスケルトンを操作することで何かをやれるという仕組みを学んでいった。

そして、ちょっと条件設定の数値(ボールを円運動させるのに、直進移動するドット数とその後に旋回する角度)を変更するだけで円運動の半径が変わるのがわかると、みんな「なるほど!」という感じ。プログラミングの楽しさの基本部分を感覚的に理解したようである。

圧巻だったのは、慣れてきて緊張もほぐれて、パートナーの子と打ち解けた後、ネコスケルトンのプログラムを改良する形で、自分たちなりのゲームを作ってみることになった時。正味1時間もないぐらいの時間だったが、2人で打ち合わせをしてアイディアを出し合い(画像9・10)、そしてどのコンビも時間内にオリジナルのゲームを作ってしまったのである(画像11~13)。1組に1人、大学生などScratchの操作方法を理解しているサポーターがついてアシストはしていたが、それでも大したものである。

画像9。アイディアを紙にまとめて、それをゲーム化。1時間足らずで、どの組もゲームを完成させていた

画像10。アイディア出しの最中の風景。この頃にはかなりリラックスしたムード

画像11。オリジナルゲームの1つ。背景も付けて非常にきれい

画像12。こちらもオリジナルゲーム。どれだけ道中のコインを拾ってゴールまで行けるかというゲームらしい

画像13。各組がそれぞれ自分たち以外の組のゲームもチェックして、一番面白いと思ったところに投票。1位を取ったチームが前に出てその内容を披露。なかなかアクション性の高いゲームとなっていた

基本的には、最初に作ったものを改良・発展させる形ではあったが、創意工夫してオリジナリティを出しているコンビも多く、立派にアクション性の高い体感ゲームもいくつもあった。

最後は、みんな口々に楽しかったので、家でも続けたい、また参加したいといった感想を述べており、もしかしたら将来、今回のイベントに参加した子はみんな情報系に進むかも知れない、という感じである。イベントとして、成功だったのではないだろうか。

自分も取材していて、正直な話、こんなに使いやすいのだから、Scratchは義務教育に採り入れてしまえばいいのでは?と強く感じた。ただし、その点は、教える側の理解不足の問題があり、先生たちを教育するのがまた大変らしい。でも、それは先生たちに阿部客員教授の教え方をそっくりそのままコピーしてしまえばいいような気もするし、自分の子どものPCを使った授業を手伝ってもいい、というようなPCに詳しい保護者もいるかと思うのだが、どんなものだろうか。

また、生徒に勝手に学ばせておけばいいのでは? とも思ったのだが、教育の指針として教師には「生徒に勝手に遊ばせるようにして学ばせるのは教育ではない」というようなルールが課せられているようで(要は、ちゃんと授業を教師がコントロールして、国で定められた通りに教えるべきことを教えないといけない)、なかなか義務教育にScratchを使った授業を取り組むというのは難しいようである。

もっと弾力的に、本当に子どもたちの未来や日本の未来を考えるのなら、「楽しく学べる」仕組みを(パソコンの授業だけでなくあらゆる教科に)導入すべきだと思うが、多分お役所のどこかに「教育はかしこまっていないとダメ」みたいな頭の固いところがあるのだろう。実権を握っている頭が固い上の方の役人の方々には、一度こういうイベントで、子どもたちがどれだけ楽しそうに学んでいるかというのを見てもらいたいものである。