京都大学iPS細胞研究所(京大CiRA)は2月2日、センダイウイルスベクターを用いてES細胞/iPS細胞から脊髄運動ニューロンへ分化させる手法を確立したと発表した。

同成果は、京都大学大学院医学研究科臨床神経学の大学院生 後藤和也氏、京都大学CiRA増殖分化機構研究部門 今村恵子助教、北野病院 小松研一医師、 京都大学CiRA増殖分化機構研究部門 井上治久教授らの研究グループによるもので、2月2日付けの米国科学誌「Molecular Therapy - Methods & Clinical Development」に掲載された。

近年、ES細胞/iPS細胞を用いた、ALSなどの脊髄運動ニューロン疾患の研究の新たなアプローチが始まっている。これまでES細胞やiPS細胞から脊髄運動ニューロンを分化させる方法はいくつか報告されているが、化合物を用いる既存の方法では多くの培養ステップを経る必要があった。

今回、同研究グループは、センダイウイルス(SeV)ベクターを用いて、ES細胞/iPS細胞にLIM/homeobox protein3(Lhx3)、Neurogenin2(Ngn2) 、Islet-1(Isl1)という3つの転写因子を導入し、脊髄運動ニューロンを作製。SeVベクターが導入された細胞のなかで、脊髄運動ニューロンの割合は90%以上となった。また、どのくらいの速さで脊髄運動ニューロンができるかを調べたところ、約48時間で脊髄運動ニューロンのマーカーが発現したという。

さらに同研究グループは、家族性ALS患者の線維芽細胞からiPS細胞を樹立し、SeVベクターで転写因子を導入してiPS細胞を脊髄運動ニューロンに分化させた。家族性ALS患者の代表的な原因遺伝子としてSOD1遺伝子とTDP-43遺伝子があるが、SOD1遺伝子変異を持つALS患者から作ったiPS細胞由来の脊髄運動ニューロンは、タンパク質の折りたたみ異常を呈するSOD1タンパク質の蓄積が認められた。また、TDP-43遺伝子変異を持つALS患者から作ったiPS細胞由来の脊髄運動ニューロンは、細胞質にTDP-43の凝集が認められ、ALSの特徴の一部を再現できたといえる。

同技術について研究グループは、他のタイプのニューロンに適用できるかはさらなる研究が必要であるとしているが、ES細胞/iPS細胞など幹細胞を用いた神経疾患研究を促進することが期待されると説明している。

免疫染色した脊髄運動ニューロンマーカー(HB9、ChAT)とニューロンマーカー(Tuj1、MAP2)。スケールバーは20μm (出所:京大CiRA Webサイト)