欧州宇宙機関(ESA)の彗星探査機「ロゼッタ」が9月30日(現地時間)、探査を行っていたチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の地表に着陸し、約12年以上にわたるミッションを完遂した。

ロゼッタは2004年に打ち上げられ、約10年かけて目的地の彗星に到着。周囲をまわりながら地表や周囲のガスを詳細に探査すると共に、搭載していた小型着陸機「フィラエ」(フィーレイ)を投下するなど、八面六臂の活躍を見せた。

ロゼッタとフィラエが集めたデータは、これからも多くの科学者によって研究されるほか、ESAでは小天体を目指す、新しい探査ミッションの検討も進んでいる。

ロゼッタが彗星に着陸(衝突)する瞬間の想像図 (C) ESA/ATG medialab

ロゼッタが衝突の直前に撮影した画像 (C) ESA/Rosetta/MPS for OSIRIS Team MPS/UPD/LAM/IAA/SSO/INTA/UPM/DASP/IDA

12年と半年の大航海

ロゼッタは2004年3月に打ち上げられ、地球や火星をスウィング・バイして加速するなどし、約10年、64億kmにわたる航海を経て、2014年8月に目的地であるチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星に到着した。

ロゼッタには高い解像度で彗星の核を撮影できるカメラや、彗星を取り巻くガスの成分や量などを観測する装置、彗星核の内部を探る装置など、計11基もの観測機器が搭載されており、彗星を詳細に観測し、多くの科学的成果を残した。

また、2014年11月には搭載していた小型着陸機フィラエを投下。フィラエは彗星地表への着陸に成功し、彗星の地表に直接触れて観測した。着陸時に起きた問題から予定どおりの観測はできなかったものの、多くの成果を残し、今年7月に運用を完全に終えている。

一方のロゼッタは、地球出発から12年と半年、彗星到着から2年が経っても、順調に探査を続けていた。しかし、現在チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星は木星の軌道に向けて、太陽から遠ざかるように進んでおり、その周囲をまわるロゼッタに当たる太陽光の量は日を追うごとに低下する。電力がないと探査機を動かすことはできない。

ロゼッタには、太陽光が弱くなる期間、大半の搭載機器の電源を落とす「冬眠機能」があり、実際に彗星到着までの間に使用された。チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星は約6.6年で太陽をまわっているため、再び冬眠に入り、彗星とロゼッタが太陽に近付くのを待つという選択肢もあったという。しかし、冬眠中も機器を守るためにヒーターをつけておく必要があるものの、計算の結果、太陽から最も遠ざかる点ではヒーターさえも動かせなくなることが判明。再びの冬眠後に目覚め、活動を再開することは不可能とされた。

さらに軌道の関係で、地球とロゼッタとの間に太陽が入り、通信しづらい時期が10月上旬まで1カ月ほど続くこともあり、運用チームは2016年9月30日をもって、ロゼッタを彗星地表に硬着陸、言い換えれば衝突させ、運用を終えることが最適だと決定した。そして着陸地点の選定が行われ、「マアト」(Ma'at、古代エジプト神話に登場する女神)と名づけられた場所が選ばれた。

ロゼッタとチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星 (C) ESA/ATG medialab/Rosetta/Navcam

高度1.2kmから撮影した地表 (C) ESA/Rosetta/MPS for OSIRIS Team MPS/UPD/LAM/IAA/SSO/INTA/UPM/DASP/IDA

終局への旅

9月30日5時50分(日本時間)、ロゼッタは高度約19kmで、衝突に向けてコースを変えるためのエンジン噴射を実施した。地表の観測を行いつつ徐々に高度を下げ、17時には衝突地点を調整するため、地球からロゼッタへ最後の指令が送られた。

ロゼッタは秒速90cm、人がゆっくり歩くくらいの速度で彗星の地表に接近し、その間、観測機器を使って、これまでにないほど近い距離から彗星を撮影し、さらに地表近くにあるガスや塵などを観測し、地球へ向けて送り続けた。

そして19時40分ごろ、ロゼッタは地表に衝突した。

このとき、ロゼッタと地球とは7億km以上も離れており、ロゼッタからの電波信号が届くまでには約40分の時差があった。その間、衝突する直前までに集められた画像やデータが届き続けた。

そして20時19分、それまで届いてたロゼッタからの信号が途絶え、地表に衝突し、機体が破壊されたことが確認された。

ゆっくりした速度とはいえ、ロゼッタは着陸できるように造られていないため、太陽電池パドルをはじめ、各部は損傷したものと考えられている。もちろん、損傷箇所によっては着陸後も生き残る可能性もないわけではなかった。しかし、いつまでもロゼッタから電波が出ていると、ほかの深宇宙探査機との通信にとって雑音となってしまう可能性もあるため、むしろ生き残ってはいけなかった。そのため衝突と同時に、通信の送信機をはじめ主要な機器はすべて電源が切られた。

打ち上げ以来、ロゼッタは太陽のまわりを6周し、航行距離は80億kmにもおよんだ。

ロゼッタが衝突の直前に撮影した最後の画像 (C) ESA/Rosetta/MPS for OSIRIS Team MPS/UPD/LAM/IAA/SSO/INTA/UPM/DASP/IDA

ロゼッタからの信号が途絶えた瞬間 (C) ESA

小天体への終わりなき旅

ロゼッタの運用終了後、ESAのJohann-Dietrich Wörner長官は「ロゼッタは再び、歴史書にその名を刻みました」と語った。「今日私たちは、夢と期待を超え、彗星においてESAが数多くの世界初を成し遂げるに至った、この画期的なミッションの成功を盛大に祝いたいと思います」。

ESAの科学部局長のAlvaro Giménez氏は「広く国際的で、数十年もの長きにわたる努力の末に、彗星に世界最先端の科学研究所を送り込んで探査をするという、ほかに類を見ないミッションを成し遂げました」と語る。「ロゼッタが残したデータは、これか何十年にもわたって、多くの科学者を忙しくさせるでしょう」。

ロゼッタのプロジェクト・サイエンティストのMatt Taylor氏は「必然的に、私たちは解くべき新しいミステリーを抱えています。彗星はまだ、その秘密のすべてを見せてくれたわけではありません。そして、ロゼッタが残したこの素晴らしいデータの遺産に、多くの思いもかけないことが隠れていることは確実です。まだこの旅路は終わっていません。ちょうど始まったばかりなのです」。

そしてESAでは、ロゼッタに続く新たなる小天体の探査ミッション「AIM」(Asteroid Impact Mission)の検討が進んでいる。AIMは小惑星「ディディモス」を目指すミッションで、AIMの打ち上げは現時点で2020年に予定されている。

また、米国航空宇宙局(NASA)では同時期の打ち上げを目指した小惑星探査ミッション「DART」の検討も進んでおり、小惑星の軌道を変えられるかどうかの実験として、ディディモスをまわる「ディディムーン」と呼ばれる小さな衛星にDARTが体当たりし、AIMがその様子を観察するという、大掛かりな観測も行うことが計画されている。

またAIMには、小型着陸機「MASCOT-2」が搭載されており、ディディムーンに着陸させ、AIMと共同で星の内部を探るほか、DARTが衝突したあとの変化などを調べることになっている。

AIM (Asteroid Impact Mission)の想像図 (C) ESA-Science Office

【参考】

・Mission complete: Rosetta’s journey ends in daring descent to comet / Rosetta / Space Science / Our Activities / ESA
 http://www.esa.int/Our_Activities/Space_Science/Rosetta/Mission_complete_Rosetta_s_journey_ends_in_daring_descent_to_comet
・How to follow Rosetta’s grand finale / Rosetta / Space Science / Our Activities / ESA
 http://www.esa.int/Our_Activities/Space_Science/Rosetta/How_to_follow_Rosetta_s_grand_finale
・Rosetta’s grand finale - frequently asked questions / Rosetta / Space Science / Our Activities / ESA
 http://www.esa.int/Our_Activities/Space_Science/Rosetta/Rosetta_s_grand_finale_frequently_asked_questions