ドイツ航空宇宙センター(DLR)は7月28日(日本時間)、彗星探査機「ロゼッタ」に搭載されている、小型着陸機「フィラエ」(フィーレイ)との通信装置の電源を切ると発表した。フィラエとの通信は昨年7月以来途絶えており、今年2月には回復の見込みはほぼないと発表されていたが、通信装置を切ることによって、通信の回復や探査機の復旧を完全に諦めることになった。

彗星着陸機「フィラエ」 (C) ESA

フィラエに「さよなら」を告げるメッセージを掲げる運用チームの面々 (C) DLR

フィラエは彗星表面への着陸を目指して開発された小型の探査機。2004年に母機であるロゼッタに搭載されて打ち上げられた。そして2014年11月、目的地であるチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星への着陸に成功し、探査活動を行った。しかし、当初予定していた着陸場所から外れた、険しい地形の場所に着陸したため、探査機の姿勢が乱れ、太陽電池に当たる太陽光の量が不足したことで、着陸から約57時間後にはバッテリーがなくなり、観測機器や通信機器の電源を落として冬眠状態に入った。

その後、彗星が太陽に近付いたことで、フィラエに当たる太陽光の量が増えたことが功を奏したのか、2015年6月13日にフィラエからの信号が地球が届いた。そして7月9日までに計7回に分けて散発的に信号が届いたものの、それぞれの通信時間は短く、探査活動を再開するまでには至らなかった。運用チームはその後もフィラエの復旧を待ち続けたが、沈黙が続いた。

2016年に入ると、彗星は太陽から遠くに離れ、フィラエに当たる太陽光も減ったことから復旧は困難と判断。DLRは同年2月12日に「フィーレイは永遠の眠りにつこうとしている」と発表し、活動再開はもう望めないという見通しを明らかにした。

だが、微弱ながら何らかの電波を出している可能性はあり、またロゼッタも軌道の高度を下げて、より彗星表面に近付く運用に入ることもあり、運が良ければその電波を受信できるのではとの期待から、ロゼッタに搭載されているフィラエとの通信装置「エレクトリカル・サポート・システム」(ESS)の電源は入れたままの状態にされた。

しかし、今日までそれは実らず、またロゼッタの電力を温存するためもあり、運用チームはESSの電源を切ることを決定。そして中央ヨーロッパ時間7月27日17時9分(日本時間7月28日1時9分)に実行され、フィラエと永遠の別れを迎えた。

ロゼッタは現在もチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の周囲をまわりながら探査を続けている。運用は今年9月30日まで続く予定で、最終的には彗星の地表に硬着陸し、運用を終える予定となっている。

ロゼッタとフィラエ

ロゼッタは欧州宇宙機関(ESA)が開発した彗星探査機で、それに搭載する小型の着陸機として、DLRによって開発されたのがフィラエである。フィラエは100kgほどの小さな探査機で、本体は六角柱の形をしており、縦・横・高さは1mほど。よく家庭用の洗濯機に近い大きさだと例えられる。

両機は結合した状態で、2004年3月2日に打ち上げられた。そして約10年の長旅を経て、2014年8月6日に目的地のチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星に到着。ロゼッタは探査を行う一方、フィラエの着陸に適した場所を探索した。そして運用チームによってある場所が選ばれ、公募によって「アギルキア」と命名された。

そして同年11月12日17時35分(日本時間)、ロゼッタからフィラエが分離された。フィラエは約7時間かけて彗星表面に向けて降下し、13日0時33分に彗星表面に脚が触れた。その約30分後、そのことを示す信号が地球に届いた。その瞬間、管制室では喝采が起き、その様子はインターネットの生中継を通じて世界中に配信された。

彗星探査機ロゼッタと、着陸機フィラエ (C) ESA

2014年8月6日、ロゼッタから彗星に到着したことを示す信号が届いた瞬間、管制センターは歓声に包まれた (C) ESA

だが、その後運用チームがデータを分析したところ、事は思いどおりに運ばなかったことがわかった。フィラエは0時33分に確かに着陸していたが、着陸装置の一部が不調で地表に固定されず、着陸の反動で跳ね上がり、計3回バウンドしたのち、4回目の接地で、アギルキアから1kmほど離れた場所に落ち着いた。運用チームはここを「アビドス」と名付けた。

しかしアビドスは起伏の多い岩場で、フィラエは大きく傾いたような姿勢になり、さらに起伏が多いせいで太陽からの光が当たりづらく、太陽電池による発電が十分にできない状態だった。

それでもフィラエは探査を開始し、科学者らが予定していた初期観測の80%あまりを完了した。その後、探査機内のフライホイール(はずみ車)を回転させ、その反動を使ってより太陽光が当たりやすい場所へ移動させることが試みられたが、結果は不調に終わった。バッテリーの容量は徐々に減り、観測機器は機能を停止し始めた。そして11月15日の9時36分にはついに通信装置も切れた。ロゼッタとの分離からここまでの活動時間は64時間だった。

フィラエがいると考えられている場所一帯を、ロゼッタが高度91.5kmから撮影した画像 (C) ESA

フィラエが着陸直後に撮影したチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の地表 (C) ESA

チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星はこのとき、太陽に近付いていくように飛んでいた。そのため彗星やフィラエに当たる太陽光の量も今後徐々に増えていくことから、太陽電池の発電によってバッテリーが再充電され、フィラエが復活できるのではとの望みがあった。

それは叶い、2015年6月14日5時28分、DLRの管制センターに、ロゼッタを経由してフィラエからの信号が送られてきた。データの分析が行われた結果、フィラエはすでに4月26日に目覚めており、メモリーには目覚めてからのこの6月13日までの間に取得されたデータが記録されていた。

その後も6月14日、19日、20日、21日、23日、24日、そして7月9日と、7回に分けて散発的に信号が届いたが、それぞれの通信時間は短く、探査活動を再開するまでには至らなかった。運用チームは、母機であるロゼッタによる彗星探査と、フィラエが冬眠の寸前までに送ってきたデータの分析を行いながら、フィラエがふたたび目覚め、信号を送ってくる日を待ち続けた。

しかしこのとき、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星は太陽との最接近を過ぎ、今度は遠ざかっていくように飛んでいた。日を追うごとに太陽光は弱くなり、温度も低くなるため、フィラエが再起動できる可能性もまた日を追うごとに小さくなっていく。

そして2016年1月には、太陽からの距離が3億kmを超えたため、DLRは2月12日、「フィーレイは永遠の眠りにつこうとしている」とし、もう復活は望めないことを発表した。その後も、ロゼッタが積んでいるフィラエとの通信装置のスイッチを入れたままにし、もしフィラエが何らかの電波を出していれば捉えることができるようにと配慮されていたが、ロゼッタに当たる太陽電池の量も減っており、消費電力を減らすため、7月28日をもってスイッチが切られることなった。

ロゼッタは、現在もチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の周囲をまわりながら探査を続けている。運用は今年9月30日まで続く予定で、最終的には彗星の地表に硬着陸し、運用を終える予定となっている。着陸場所や詳しい時間などは現在検討が進められている。

また、ロゼッタ、フィラエが集めた科学データは、これからも世界中の研究者によって分析が進められる。

ロゼッタとチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星 (C) ESA

ロゼッタとフィラエの計画の始まりから、これまでの探査活動、得られた科学的成果などについては、連載『さよなら、「フィーレイ」』をご覧ください。

【参考】

・DLR - Blogs - Philae - Say goodbye to Philae
 http://www.dlr.de/blogs/en/home/philae/Say-goodbye-to-Philae.aspx
・Farewell, silent Philae | Rosetta - ESA's comet chaser
 http://blogs.esa.int/rosetta/2016/07/26/farewell-silent-philae/
・DLR - Englishさんのツイート: "#GoodbyePhilae: Communication unit switched off... A last #VideoUpdate from #Philae s Control Center at DLR
 https://twitter.com/DLR_en/status/758341091070476290