CGの魅力とは?

橋本氏は「新しい技術があれば、新しい映像を見られる」ことがCGの魅力だと述べる。「新しい技術によってできた映像」とは、たとえばファイナルファンタジー7がそうだったのか?

「あれはすでに映画なんかで使われていた技術でしたが、問題はゲームのメモリが2メガくらいしかなかったこと。どうスケールダウンして動かすかが大変でした」(橋本氏)

映像に革新をもたらしてくれるCGだが、決して魔法の道具というわけではない。予算不足に悩まされる映画業界ではワイヤーフレームを作ることができず、なんと物理的に針金で作っていたこともあったという。

「普通、ワイヤーフレームは線の太さが手前も奥も一緒なんだけど、僕らが作る物理的なワイヤーフレームはカメラが近づくと手前が太くなって奥が細くなるんです。だから針金だって気づかれてしまう(笑)」(樋口氏)

同じく「ワイヤーフレームが大好き」と語るのは西田氏だ。実は西田氏がCGを専門に選んだのには「数学が嫌いだったから」という意外な理由があったという。

「学生時代は数学が嫌いだったので、一番数学を使わなくてよさそうなCGを選んだんです。絵を描くだけなら数学いらないだろうって(笑)。今、CGはゲームや映画にも使われていて、いろいろな分野を融合しています。レオナルド・ダヴィンチは一人で絵を描いて飛行機も設計して科学もやっていましたよね。そこから理系と文系に分かれて、今またCGがいろいろな学問を融合させている。総合的な学問の潤滑剤になるところがCGの魅力だと思います」(西田氏)

VRの魅力と今後の展望

CGに近い分野として、近年急速に注目を集めているのがバーチャルリアリティ――VRである。2016年はVR元年とも呼ばれており、ニコニコ超会議にも多数のVR関連ブースが出展されていた。

CGとはまた違うVRの魅力について、西田氏は「誰でも体験できること」だと言う。誰もが体験できることでCGの魅力を世界に広められるからだ。

「僕の師匠はCGがいずれ道具になることが夢だと語っていました。車レースでは車を作った人ではなくレーサーが有名になります。CGもそれを誰が作ったかではなく、それを使う人――たとえば映画監督なんかが有名になってくれればと思うのです」(西田氏)

その映画監督である樋口氏は、自身も「バーチャルボーイ」の時代からVRに注目していた一人であると語り、VRには大きな可能性を感じているとしながらも、「課題は多い」と苦言を呈する。

「バーチャルボーイの時代から変わっていないのは、ヘッドマウントディスプレイをのぞくときにメガネのふちが汚くて使うのがイヤだって人が多いこと(笑)。だからあのデバイスがパーソナルにならない限り、(VRの普及は)進まないんじゃないかと思って悶々としています。それから最大のネックはヘッドマウントディスプレイを装着するのに専門の人が必要なことと、使い方を説明するのに時間がかかることですね」(樋口氏)

これに西田氏も「サザーランドから50年たつのにまだメガネですからね。もうちょっと進歩してもいいんじゃないかと思います」と深くうなずいていた。

もっとも、技術がいくら発展してもコンテンツがそろわなければ意味がない。ゲーム業界でそれを体感してきた橋本氏は「今はコンテンツにお金がかけられないけど、マーケットが広がってきたのでこれからは投資は増えてコンテンツが進化してくるはず」と将来の展望を語った。

最後に樋口氏は「意外と世の中にCGが嫌いな人は多い。先入観にとらわれずCGを好きになってもらいたい」と述べ、座談会を締めくくった。