産業技術総合研究所(産総研)は5月9日、どの方向からも画像が自分に向いているように表示できるディスプレイを開発したと発表した。同成果は、産総研 人間情報研究部門 感覚知覚情報デザイン研究グループ 大山潤爾研究員らの研究グループによるもの。

産総研はこれまで、人間工学や認知心理学における感覚知覚認知特性の観点から、表示コンテンツの見やすさの評価や改善の研究を行ってきたが、表示面を正面から見た場合の見やすさは改善できるものの、表示の正面ではなく見にくい方向からの見やすさは改善できなかった。

同研究グループは今回、特殊なレンズによる独自の表示技術を開発し、どの方向からも表示の正面が利用者を向いているように見える静止画のディスプレイのプロトタイプを製作。同ディスプレイを用いると、これまでの技術で改善できなかった、表示角度による見にくさや死角の問題を解決できるという。

たとえば、通常の表示方法で円形の柱の表面に情報を掲示した場合、情報の表示面に垂直な方向からだけ最も見やすい状態で表示を見ることができるが、方向が変わるにつれて見にくくなり、90度ずれた方向からは表示が見えなくなる。一方、今回開発した技術を適用すると、あたかも柱の内部の平面に見ている方向を正面とした表示面があるように見えるため、柱の周囲の、どの方向からも、見ている方向が正面になり、常に最も見やすい条件で表示を見ることができる。また、何人もの利用者が同時に別の方向から見ても、すべての利用者が自分の方向を向いた最適な条件で表示を見ることが可能。

なお、ディスプレイのサイズはほとんど制限されないため、今回試作された高さ約8cm×直径約8mmの小さなものから高層ビルの壁面まであらゆるサイズに適用できる可能性があり、同研究グループは、公共交通機関や公共施設への適用、広告宣伝への利用、利用者の共感や一体感の向上といった効果を想定している。

今後は、大都市における情報環境の整備や公共施設での静止画ディスプレイなどを対象に2年以内の実用化を目指すとともに、国や自治体、民間企業と連携して技術移転を進めていく。また、動画用のディスプレイの試作も進めており、2020年には公共スペースやイベント、展示会、商業施設などでの業務用としての実用化を目指し、2030年までには民生用としての実用化を図っていくとしている。

ディスプレイの試作模型(a,bは別角度から撮影)と利用例(cのイラストの矢印箇所)