血液中の特定のタンパク質に、急性腎不全の症状を改善する働きがあることを、東京大学大学院医学系研究科の宮崎徹(みやざき とおる)教授らの研究グループがマウスの実験で明らかにした。このたんぱく質はヒトの血液にも含まれ、慢性化しやすい急性腎不全の新しい治療法開発につながる研究成果として期待される。科学技術振興機構(JST)が5日発表した。

腎臓は、血液中の老廃物をろ過し、尿として排せつする大切な臓器。腎臓の機能が低下すると、血液中に老廃物がたまり、体内の他の臓器の機能に支障をきたす。急性腎不全は、細菌感染や異常な薬剤投与、大出血などが原因で急激に腎臓機能が低下する病気。致死率も高く、慢性化して慢性腎不全に進行し、透析治療が必要になるケースも多い。これまで急性腎不全の決定的な治療法はなかった。

宮崎教授らは、細胞が死ぬ「アポトーシス」を抑制する働きがあるタンパク質の「AIM」を既に発見。このAIMが他にもさまざまな働きがあるのではないか、と考えた。研究を進め、AIMは腎臓機能が低下すると、尿中に移動して老廃物に付着、老廃物が付着したAIMが目印になって、周囲の免疫細胞がこの老廃物を除去する仕組みがあることを明らかにし、急性腎不全のモデルマウスで実験を続けた。

その結果、血液中に含まれるAIM量に加えてAIMを静脈注射した急性腎不全マウスは、尿細管にたまった老廃物がなくなり、腎臓機能が回復。AIMを人工的に取り除いたマウスの多くは間もなく死に、AIMがある急性腎不全マウスも、AIMを静脈注射しないと老廃物は除去されずにやがて多くは死んだ。これらのことから、AIMを静脈注射することで、腎臓の中の尿の通り道(尿細管)での老廃物の詰まりが解消され、腎臓機能も改善することが分かった、という。

ヒトでも腎臓機能が低下すると、AIMは尿中に移動、老廃物に付着することから、研究グループは、急性腎不全患者に対してもAIMの静脈注射治療は有効、として研究を進める。宮崎教授らは「急性腎不全が改善した後(の患者)にも、定期的にAIMを投与することで腎臓のごみを掃除し、急性腎不全の再発や慢性化のリスクを低下させる可能性が高いと考えられる」としている。

この研究は、JSTから昨年4月に日本医療研究開発機構(AMED)に移管された研究開発領域の一環で行われた。

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