夢を見る浅い眠りである「レム睡眠」が、記憶を形成させる脳波を強めることを、筑波大学国際統合睡眠医科学機構と理化学研究所脳科学総合研究センターの研究グループが解明したと23日、発表した。レム睡眠と深い眠りの「ノンレム睡眠」を切り替える脳の神経細胞も発見し、研究グループは、睡眠障害のほか、アルツハイマー病やうつ病など脳波低下がみられる病気の研究に役立てたい、としている。研究成果は米科学誌サイエンス電子版に掲載された。

研究グループは、脳内で睡眠に関わると推定される部位を詳しく調べ、レム睡眠とノンレム睡眠を切り替える役割をしている神経細胞を発見。この神経細胞の機能を操作できるマウスを開発した。このマウスを使って実験したところ、レム睡眠を減らすと、記憶の形成に関わる脳波(デルタ波)が弱まり、逆にレム睡眠を増やすとデルタ波が強まることが判明。これらのマウス実験から、レム睡眠には、記憶形成や学習を促すなど重要な脳活動をしているデルタ波の活動を、ノンレム睡眠中に誘発する役割があることも分かった、という。

レム睡眠は1953年に発見され、1957 年には、夢が主にレム睡眠中に生じることも明らかとなった。また、レム睡眠とノンレム睡眠が見られるのは、複雑な脳を持つ哺乳類と鳥類だけで、二つの睡眠は、 脳の高等な機能に関わると考えられていた。さらに、レム睡眠は新生児期や学習直後に多いことなども知られていたが、詳しいことは最近の脳科学研究でも依然謎に包まれていた。

この研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業さきがけの一環として行われた。

成人では、アルツハイマー病やうつ病、睡眠時無呼吸症候群の患者で、睡眠中のデルタ波の減少が知られており、レム睡眠の低下が、脳機能の低下を引き起こしている可能性が考えられている。また、日本人の5人に1人は不眠に悩んでいるという報告もあるが、現在の不眠症治療薬では、レム睡眠の割合が減少するという問題があった。心的外傷後ストレス障害(PTSD)やある種の薬剤の副作用により引き起こされる悪夢なども、レム睡眠の異常と考えられている。今回の研究成果は、これらの現象や問題を今後解明、解決すると期待される。

関連記事

「体内時計つかさどる脳の細胞で発見続々」

「"世界トップレベル研究拠点"に新規3機関」