光合成に欠かせない葉緑素を、植物が害虫から身を守るためにも活用している意外な事実がわかった。昆虫が葉を食べた時、植物の酵素クロロフィラーゼが作用して葉緑素のクロロフィルからクロロフィリドを作りだして、昆虫の死亡率を高めたり、成長を抑えたりすることを、北海道大学低温科学研究所の田中亮一(たなか りょういち)准教授と胡学運(ふ しゅえゆん)研究員、日本曹達株式会社小田原研究所の牧田悟(まきた さとる)研究員らが突き止めた。植物に秘められた深い生活の知恵をうかがわせる発見といえる。京都大学とスイス・チューリッヒ大学との共同研究で、1月12日付の米植物学会誌Plant Physiologyオンライン版に発表した。

図1. 葉緑素(クロロフィル)とクロロフィリドの構造。葉緑素にはフィトール基(C20H39)がついているので、水に溶けにくい。酵素のクロロフィラーゼは葉緑素のフィトール基を加水分解し、水の溶けやすいクロロフィリドを生成する。(提供:北海道大学)

植物がもつ酵素クロロフィラーゼは、水に溶けにくい葉緑素を、水に溶けやすいクロロフィリドに変える活性がある。この酵素は葉の中に多く、100年以上も前から存在が知られていた。しかし、植物にとってどのような役割を担っているかは謎だった。研究グループは、クロロフィラーゼが細胞内の袋状の小胞体や液胞に存在することを初めて見いだした。葉緑素は葉緑体の中にあるので、この酵素は通常作用しない。しかし、植物の葉をミキサーですりつぶすと、クロロフィラーゼの作用で葉緑素はクロロフィリドになった。

図2. 葉緑素とクロロフィラーゼからなる2成分防御系のイメージ。
(A)植物細胞が正常な構造を保っている時は、葉緑素は葉緑体に、クロロフィラーゼ(酵素)は主に液胞にある。 (B)害虫の幼虫が葉を食べて、葉の細胞を壊した時は、クロロフィラーゼが葉緑素に作用して、瞬時に葉緑素を、害虫の生育抑制効果があるクロロフィリドに変える。 (提供:北海道大学)

遺伝子組み換えで、モデル植物のシロイヌナズナのクロロフィラーゼ含量を増やすと、その葉を食べた後に害虫のハスモンヨトウ幼虫の死亡率が10~15%高くなった。また、クロロフィリドを幼虫のエサに混ぜると、幼虫の成長が10~20%抑えられた。さらに、クロロフィリドは葉緑素に比べて、幼虫の腸内に吸着しやすいこともわかった。これらの結果から、植物は害虫に食べられた時に、葉の中に大量にある葉緑素をクロロフィリドに変換して、自らを防御している可能性が浮かび上がった。

植物は多様な方法で昆虫から身を守っている。そのひとつが、虫に有害な化合物を細胞内に蓄積する方法だが、有害な物質の蓄積は植物自身にも危険で、もろ刃の剣といえる。そこで、植物は不活性型の化合物を蓄積し、昆虫によって食べられた時に、瞬時にこの化合物を活性化し、これを食べた昆虫の生育を阻害するという防御方法も獲得してきた。化合物と活性化酵素の2つの成分によって成り立っているため、2成分防御系と呼ばれる。植物に多い葉緑素とクロロフィラーゼが典型的な2成分防御系であることが今回わかった。

田中亮一准教授は「葉緑素から変換されるクロロフィリドは幼虫の腸に吸着しやすいので、栄養の吸収を妨げている可能性が考えられる。植物がもつほかの防御物質と比べると、昆虫の成長を阻害する活性は弱いが、葉緑素は植物体内に大量に蓄積しているので、身を守るため、無駄なく有効に使っているのではないか。効果が小さくても、生存競争には意味がある。植物の多彩な防御や、その多様性の解明にもつながるだろう」と話している。