明るい光の下での身体運動は、睡眠だけでなく、体内時計の調節にも有効であることを、北海道大学大学院医学研究科の山仲勇二郎(やまなか ゆうじろう)助教と本間研一名誉教授らがヒトの実験で確かめた。適度な運動による生体リズムの調整法を勧める発見といえる。6月18日付の米国生理学雑誌American Journal of Physiology - Regulatory, Integrative and Comparative Physiologyの電子速報版に発表された。

図. 8時間ずらした睡眠時間で4日間過ごした後でのメラトニンリズム変化、睡眠脳波で評価した睡眠の質(睡眠効率)の平均値。明るい光の下での運動で、メラトニンリズムが速やかにリセットされ、睡眠の質も低下しなかった。(提供:山仲勇二郎北海道大学助教)

ヒトの睡眠と覚醒には、ほぼ24 時間の周期で繰り返されるリズムがあり、通常は体内時計で調節されている。しかし、時差飛行などで急激に生活リズムを変えると、体内時計の支配が一時的に外れ、時差ボケが生じる。ヒトの体内時計は数千ルクス以上の明るい光で調節でき、照明をタイミングよく使えば、体内時計を適切にリセットできることがわかっている。

北海道大学医学部には、昼夜変化や外部の騒音をシャットアウトした1LDKの時間隔離実験室がある。研究グループは、この実験室に20代の男性15人を12日間1人ずつ過ごさせ、通常の睡眠時間帯を 8 時間前進させる時差飛行の模倣実験を実施した。覚醒している時間帯に実験室を 5千ルクスの高照度光で明るくした。

その間、15人のうち7人には、自転車エルゴメーターを15分間こいで15分休むのを2時間繰り返させ、そのインターバル運動を 1日2回、4日間続けさせた。体内時計の指標として血中メラトニンの変動を、睡眠覚醒リズムの指標として行動リズムと睡眠脳波などを測った。運動しなかった8人と比較した。

明るい光を浴びながら運動すると、明るい光だけの場合と比べて、体内時計が目的地の時刻に素早くリセットされた。明るい光の下での運動は、特に時差ぼけの際の不眠を防ぎ、睡眠の質を維持するのに役立つことも確かめた。明るい光だけでも、細かなスケジュールを組むことによって時差ぼけを減らせるが、今回の研究は、そのような手間をかける必要がなく、まず運動すればよいことを示した。

研究グループの山仲勇二郎さんは「運動は体内時計の光に対する反応性を増強することで目的地への素早いリセットを可能にしているのかもしれない。光や運動による覚醒レベルの上昇が体内時計の調節に有効なのだろう。この方法は光の下で運動すればよいので、すぐ応用できる。運動は、息が少し上がる程度で、普段より活動的な散歩でもよい。交代勤務の際の身体不調やリズム障害など、体内時計の乱れに悩んでいる人は、こうした運動を取り入れてほしい」と提言している。