東京大学は5月14日、南アフリカ・ケープタウン大学などとの共同研究により、いて座あるいはへびつかい座の方向に太陽系から6~10万光年の距離にある5つのセファイド変光星を観測し、天の川銀河の「フレア領域」に存在していることが確認され、同領域に存在することが確認された初めての恒星となったことを発表した。

成果は、東大の松永典之助教、ケープタウン大のマイケル・フィースト名誉教授らの国際共同研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、5月15日付けで英科学誌「Nature」電子版に掲載された。

我々の天の川銀河の中で、1000億とも2000億ともいわれるほとんどの恒星と星間物質は銀河系円盤、一般には天の川として見られている円盤状の領域に存在しており、それらは直径約10万光年の円盤の中を秒速240キロメートル程度の速さで回転している。太陽系もその円盤の中に位置する恒星の1つだ。

円盤の厚みは、太陽系のある場所(中心から約2万5000光年)では1000光年程度だ。一方、星間ガスの観測に基づく研究から、円盤の外側に行くと実は逆に厚みが増大し、中心から5万光年のところでは3000光年程度の厚みになっていると考えられている。よく見受ける天の川銀河の想像図は、中心部のバルジが膨らんでいて、外縁部に行くほど厚みが細くなる形だが、実際には外側の方が厚くなっているというわけだ。フレアとは、このように円盤が外側でふくれ上がる様子のことをいう。

天文学において、星間物質と恒星とは、それを調べるための観測手段もその観測からわかることもかなり異なっている。星間ガスは主に電波で観測され、銀河系円盤部の広い領域に存在するガスの研究が盛んに行われている。ほぼすべての星間ガスが円盤中で回転しているため、この回転運動の様子を仮定するモデルを利用すれば、運動の様子から逆にガスの分布がわかるという。ただし、ガスまでの距離を回転運動と独立に求めることが難しいことには注意が必要だ。

一方、恒星は可視光や赤外線で観測されることが多く、恒星の多くが円盤中に分布しているものの、それを取り巻くさらに広い範囲に散らばっている恒星のグループも存在する。また、円盤の中でも恒星の年齢などにより、星間ガスと同じように回転しているものもいれば、もっとばらばらな運動が目立つものもあり、存在する恒星のグループは多様だ。

これらの多様性により、星間ガスと同じように分布を調べる方法を使うことは難しく、それ以外の方法でも1つ1つの恒星までの距離を求めることは大変困難な作業となる。このため、恒星およびガスの密度が小さく、いろいろな恒星のグループが混在している円盤の外縁部においては、恒星の分布を調べることは特に難しく、そのため、星間ガスで調べられていたフレア領域に恒星が存在するかどうかはわかっていなかったのである。

そこで研究チームは今回、セファイド変光星と呼ばれる恒星に着目。セファイド変光星は2~50日ほどの周期で明るくなったり暗くなったりを繰り返す特殊な恒星で、その周期と星の固有の明るさには「周期高度関係」があり、これにより各セファイド星までの距離を測定することが可能だ。この特徴から宇宙の距離を測るのに使われており、「宇宙の灯台」とも呼ばれている。

この性質により、円盤の回転運動とは無関係に銀河系中での位置を求めることができる。今回の研究では5つのセファイド変光星がターゲットとされ、測定により距離が6~10万光年、円盤からの高さは約3000光年以上と、星間ガスによって予想されていたフレア領域に位置することが確認された(画像1)。

ただし、これの情報だけであれば、たまたまその位置にある円盤とは関係のないグループの星である可能性もある。しかし、同時に行われた運動の測定により、ガスと同じように回転運動をしていることも判明した。これによって、初めてフレア領域に存在している恒星であることがわかったというわけである。

なお今回の5つのセファイド変光星は、厳密には完全な新発見ではない。ポーランド・ワルシャワ大などの研究者らが、2012年にセファイド変光星として報告した32個の天体に含まれるものだ。ただし、その時はどの方向にそれらが存在しているかという方位情報のみが報告されており、地球からの距離や運動の状況などは報告されていなかった。

しかし、今回の研究により改めてフレア領域にあるセファイド変光星であることがわかったため、「フレア領域で発見された恒星」とされた次第だ。フレア領域に存在する恒星の距離と運動の測定は、南アフリカ共和国の南アフリカ天文台(SAAO)サザーランド観測所にあるIRSF(Infrared Survey Facility)望遠鏡(名古屋大学が2000年に設置した口径1.4mの望遠鏡で、1.25、1.63、2.14マイクロメートルの3種類の波長で観測可能な近赤外線カメラ「SIRIUS」を搭載)とSALT(Southern Large Astronomical Telescope)望遠鏡(2005年から観測が始まったSAAOが欧米各国と共同建設した口径10mの可視光・赤外線望遠鏡で、南半球では最大)が用いられた(画像2)。

画像1(左):天の川銀河の円盤を横から見た、今回発見された5つのセファイド変光星(左側)とこれまでに知られていた同種の天体の位置を比較した概念図。右側のオレンジ色の点が太陽系。5つのセファイド変光星は、天の川銀河の中心(図の中央でより明るくなっているところ)よりも向こう側で円盤から離れたフレア領域に存在している。(c) R. M. Catchpole (IoA Cambridge) and NASA/JPL-Caltech. 画像2(右):発見されたセファイド変光星の1つ。IRSF望遠鏡で得た赤外線画像(左、距離の測定に利用)とSALT望遠鏡で得たスペクトル(右、運動の測定に利用)。(c) Feast, Menzies, Matsunaga & Whitelock

今回、フレア領域に恒星が見つかったことで、特に天の川銀河の外側に存在する物質の分布を探る新たな手がかりが得られたという。これは、恒星や星間ガスの運動が、そこにある物質から受ける重力に支配されているためだ。

もう少し詳しく説明すると、まず銀河円盤中の回転運動だが、これは円盤の中心に向かって落ち込もうとする重力と回転による遠心力がつり合うことで安定する。一方、円盤とは垂直な方向の運動を考えると、円盤から飛び出そうとする星の運動を円盤部に集まっている恒星自身や星間ガスの重力が引き戻すことで円盤が保たれるという具合だ。

しかし、恒星や星間ガスの密度が小さくなる円盤の外縁部ではその重力が弱くなって、円盤から離れたところまで恒星が動いていくことができ、これが円盤の外側でフレアが生じる理由だと考えられている。太陽系近辺の銀河中心より2万5000年光年ほどの地点では円盤の厚みが1000光年なのに対し、5万光年ほどの外縁部では厚みが3000光年と、一般的な天の川銀河のイメージとは相反するのはそのためだ。なお、恒星の数自体は外縁部へ行けば減っていくのは間違いないので、画像1にあるように、一般的な天の川銀河の想像図がまったく間違っているわけではない。実際の天の川銀河の領域(重力の及ぶ範囲)は円盤部分よりももっと大きく、円盤の垂直方向にも広がっており、球状とされている。

一方、恒星や星間ガスとはまったく異なる分布を持ち、天の川銀河のずっと外側まで広がっている重力源が存在することは、天文・宇宙物理学が好きな方ならご存じだろう。現在のところ、通常物質とは重力のみでしか干渉し合わず、どんな電磁波でも確認できていない暗黒物質だ。フレア領域のように恒星・星間ガスの密度が低い銀河外縁部では、暗黒物質がそこで運動する天体に大きな影響を及ぼしているという。よって、今回発見されたセファイド変光星がどのように運動しているかを詳しく調べることで、暗黒物質がどれだけ存在しているのかという研究を行える可能性が高まるというわけだ。

また今回の5つのセファイド変光星は、同じようにフレア領域に分布するセファイド変光星の内の氷山の一角に過ぎない可能性が高いともいう。今後のさらなる観測で多くのセファイド変光星を発見することができれば、それらの天体が暗黒物質探査の新たな目印になるものと期待されるとしている。